第85話楓と華奈の不安
「あのね、光君」
楓は何か思いついたようだ。
光は楓の顔を見る。
「え?何?」
楓
「今は真夏だよ」
光
「うん、かなり暑いね」
光は自然に応えている。
楓は光の顔を見て
「だいたいスタジオまで歩けるの?駅から遠かったらどうするの?」
会話を聞いていた華奈が、途端にニンマリとなる。
だいたい駅から学校まで歩くのに、ヒイハアしているような光だ。
炎天下を歩くとなれば、絶対無理。
そして、その無理は光自身が一番納得しているはずと思う。
華奈は楓の機転に「感心しきり」になる。
「えっとね・・・」
しかし光は全く表情を変えない。
楓と華奈は、その表情を変えないことが信じられない。
光が炎天下を歩くはずがない、長年の付き合いでの真実である。
それなのに、光は平然としていることが、全く信じられない。
「晃子さんね、練習日が決まったら、車で迎えに来るんだって」
光は、はんなりと口にした。
ここで、楓と華奈は、思わず顔を見合わせた。
こうなると、ますます不安が高まるではないか。
スタジオでの練習と称して、どこに行くのかわからない。
ますます、誘惑リスクが高まってしまった。
「やば・・・」楓
「どうしよう・・・」華奈
「付き添いできるのかな」楓
「うーん・・・呼ばれていないしさ」華奈
「実力認められていれば、一緒に練習できるけれど?」楓
「私、晃子さんと練習できるほど、上手じゃない・・・」華奈
再び光のスマホが鳴った。
光はともかく、楓と華奈は耳をそばだてて、聞き取ろうとしている。
「あっ、はい」
相変わらず弱々しい光の受け答えである。
楓と華奈と楓が懸命に耳をそばだてるけれど、どうしても相手の声が聞き取れない。
どうにも、もどかしさと不安が募る。
「わかりました、行きます」
そして光は電話を切ってしまった。
何も表情が変わらない。
楓と華奈はますます焦る。
「ねえ?晃子さんから?」楓
「いつの練習?」華奈
通話の相手も晃子と決めつけて、尋問をする。
「え?」
光はキョトンとした顔になった。
楓と華奈は、その「キョトン顔」に、本当に腹が立った。
「え?って何!」楓
「とぼけても無駄です、隠さずに!」華奈
ますますキョトンとする光に尋問を強める。
「えっと、明日の夜・・・」
光が言いかけると、ますます二人の表情が厳しくなる。




