第83話光の安易な承諾
「あはは、ごめん、事実だけど・・・」
楓は華奈に気になることを連発しながら、何か考えている。
「・・・事実はともかくとして・・・やがて大きくなるとして・・・」
やはり華奈は、事実を認めているけれど、将来の「成長」を固く信じている。
「えっとね・・・」
楓は腕を組む。
「うん」
華奈は楓の表情が心配でならない。
「見て見ないとわからないな、正確には・・・」
楓は華奈の顔を見た。
「じゃあ・・・彼女は明後日の練習に来るから見に来て」
華奈は必死の表情になる。
「うん、それは大丈夫だけれど・・・」
楓の表情が少し変わった。
「けれどって?」
華奈も何か異変を察知したようだ。
ぼんやりと楽譜を見ていた光のスマホが鳴った。
「誰だろう、こんな時間に」光
既に夜八時。
「この番号知らないけれど・・・」
光は不思議に思ったが、スマホを取った。
「まあ、いいや、知らない人なら電話を切ればいいんだから」
簡単に考えて電話に出た。
「もしもし・・・光君?」
若い女性の声。
「あ・・・はい・・・どちらさまでしょうか・・・」
聞き覚えがあるような気がするが、よく思い出せない。
「あら・・・覚えていないの?せっかく自己紹介したのに・・・」
「晃子です」
若い女性は晃子と名乗った。
今回の音楽部コンサートのヴァイオリンのソリストだった。
「あ・・・はい・・・」
光は、少しうろたえた。
多少指揮者として恥ずかしかった。
「全く・・・でね」晃子
「はい」光
「今日の練習、本当に弾きやすかったから、お礼を」
本当は次の練習でお礼でも言えばいいのに、なぜか丁寧。
「いえ・・・そんな・・・拙い指揮で」光
「いえいえ、素晴らしかった・・・でね、少し頼みたいことがあるの」晃子
「はい、何でしょうか」光
「オーケストラと合わせるだけでなくて、少し光君とも合わせて見たいの」晃子
「うーん・・・そう言われましても」
光は具体的な内容がわからない。
「うん、スタジオとか少し調整するから、コンサートまで何回かお願いね」晃子
「はい、スタジオでの練習ですか、それなら」
光は承諾した。
光としては、単純にエアコンが効いていればいい、暑くなければいい、そんな理由の「安易な」承諾をする。
しかし、この安易な承諾が、また騒動を引き起こすことになる。




