第79話坂口の家系、美人ヴァイオリニスト晃子登場
「もしかすると誰もかなわないどころか・・・」
校長も真顔になった。
柔道部顧問の山下は言葉を続けた。
「特に坂口さんが言っていたのですが・・・」
校長
「うん・・・」
山下
「あの格闘の力は人のものではない・・・」
校長の表情も厳しくなった。
「・・・・」
黙り込んでしまう。
山下は声を低くする。
「坂口さんの家系は、京都の石清水八幡神社で禰宜です」
「特に最後に斎藤が柔道場の壁に投げつけられた時・・・恐ろしい影を見たと・・・私もそうでなければ、納得ができません」
柔道部顧問山下は震えている。
「そうか・・・なお一層警備には慎重を」
校長の声が重い。
コンサートの五日前になった。
光と音楽部の練習は順調に進み、二曲目のモーツァルトのヴァイオリン協奏曲を弾くソリストも今日から練習に参加するようになった。
「晃子です、よろしく」
ヴァイオリニストは、指揮台の横で自己紹介をした。
昨年度のN新聞主催音楽コンクール優勝者である。
祥子の卒業した音大の後輩になり、祥子と親しかったため、今回の音楽部のコンサートに呼ばれたのである。
「うわっ・・・綺麗」
「綺麗だし、可愛い」
「それだけじゃないよ、スタイルもすごい」
「なんか・・・色っぽい、セクシーだ」
晃子を目の前にした音楽部員から、驚きの声が上がっている。
確かにマスコミ関係や音楽関係者にも評判の高い美人ヴァイオリニストである。
通常なら、高校生レベルのコンサートには出演しないけれど、祥子を尊敬していたことから、特別のサービス出演となった。
晃子は指揮台でぼんやりとしている光にも挨拶をした。
「はい、晃子です。祥子先生も褒めていました」
「私も楽しみです」
本当にニッコリと光に握手を求める。
男子学生たちは羨ましそうな顔になる。
女子学生たちは、少し不安げな顔である。
ただ、華奈だけは、表情が異なっている。
「何・・・あの人・・・変・・・」
一旦首をかしげ、その後、顔をしかめた。
「何か、変な性格かも・・・いや、アブナイ予感がしてきた」
「それも・・・ちょっと・・・」
「嫉妬じゃないけれど・・・」
華奈は顔をしかめるけれど、光は例によって、ぼんやりと握手をしているだけ。
しかし、光の手を握った瞬間、晃子の顔がいつになく上気している。
「じゃあ、さっそく・・・」
光は、上気して光を見つめた晃子に、ほんの少しだけ会釈をして、練習を始める。
モーツァルトらしいまろやかな音楽が広がる。
「祥子さんには聞いていたけれど、本当に弾きやすいな」
「この光君のスタイルって・・・」
「モーツァルトに導かれているみたいで・・・」
「自分の個性とかどうでもいいや」
「そのまま弾いているだけで、何か・・・幸せ」
晃子の感じている通り、光の指揮のまま、何かに導かれているかのように、晃子はヴァイオリンを弾き続けている。




