第74話野球部顧問とチャラ男吉田登場
「校長先生、野球部の渡辺顧問と吉田さんがこっちに歩いてきています」
華奈も、顔をしかめている。
華奈も、渡辺顧問を好きではない。
何かにつけ、音楽部を「お囃子クラブ」と馬鹿にする。
酷い時は、音楽部員が野球部のために、ジュース類を買いに行かされることもある。
少しでも反発するような顔をすると
「お囃子クラブのくせにでかい口たたくんじゃねえ!お前らも、甲子園に出られるようサービスせんかい!」
野卑たドラ声で怒鳴られるのが恒例となっている。
ただ、その専横ぶりは、他の文化部からも噂がある。
つまり野球部顧問にとって、高校野球だけが至高にして価値がある。
それ以外の、特に文化部は「三下」、全く価値を認めていないし、彼にとっての「神聖なる高校野球」に奉仕して当たり前と考えている。
また、華奈は、吉田からいつも、「お茶飲みに行こう」と誘われ、ヘキエキしている。
いつも華奈は断るけれど、そのたびに、細く鋭い目で睨み付けてくる。
断るたびに
「うるせえ!この餓鬼娘、恥かかせやがって・・・後で泣き声あげても・・・」
低い声で脅されるのである。
「校長先生、頼みがあります」
予想通り野球部顧問と吉田は、校長の前に立った。
赤ら顔ながら、真剣な顔である。
「あ、じゃあ・・・」
光は、祥子と校長に挨拶をして、楓と歩き出そうとする。
野球部顧問は校長に用事があるので、関係が無いと思っている。
「ああ、それから、光も残れ!」
しかし光は、通り過ぎることが出来なかった。
野球部顧問に止められたのである。
言い方も少し乱暴である。
「え?何か・・・」
校長も光も野球部顧問の乱暴な言い方に、ムッとする。
「ああ、はい、校長、光を野球部に入れてください」
「こういうひ弱な奴は、しっかり鍛える必要があります」
「是非、吉田にも言って猛練習で鍛え上げますので、校長からも、是非・・・」
野球部顧問は、光を睨み付けながら校長に迫った。
吉田はニヤニヤと笑っている。
吉田にとって、光は赤っ恥をかかされた相手。
顧問には事実に反することを言ったが、どうせ単純でだましやすい顧問である。
後で、どうでもごまかせる、それよりシゴキあげてぐったりとなった光の顔が見たかった
こんな楽しいことはない、ヘトヘトになってフラフラの光を見れば、由香利や華奈をはじめ、全ての女子学生が愛想をつかすだろう、そんな単純な考えである。
そして、やっと甲子園有望となった野球部の頼みであるから、校長に話をすれば、すんなり決まると思っている。
「うーん・・・意味がわからないが・・・」
校長は、何故野球部顧問が、光を睨み付けてまで、野球部に入れて鍛えたいのか、わからない。
この突然の話には、祥子先生の顔色も変わった。
「あのね、渡辺顧問、野球場での無理な応援から始まって、今度は光君を野球部に入れるって、どういうことですか」
「光君は、すでに音楽部に入部しました」
「二週間後のコンサートでは指揮をします」
「それに、光君の意思も聞かず、ひ弱だから鍛え上げるって、何ですか?」
「何の権限があって、そんなことを言えるの?」
祥子先生は真っ赤になって怒っている。
次第に、学生たちがたくさん集まってきた。
教員室から先生たちも出てきている。




