第73話でも・・・あれ・・・不穏の予感
「マネージメントは私も手伝います」
「あと二週間です、もう少し予算をかけてもいい、PRを強めましょう」
校長先生は、そう言って笑った。
その笑顔で、祥子の長年の胸のつかえが無くなった。
「ありがとうございます。」
祥子にしては珍しく、心から頭を他人に下げた。
「いや・・・礼には及びません」
校長は軽く流した。
「え?」
あまりの軽さに祥子は驚いた。
「いや、大丈夫です、それより・・・」校長
「それより?」
祥子は校長の次の言葉が気になった。
「あの、私ブラームス大好きで、そして、光君のブラームスがいいなあと」
「祥子先生ちょっと黙ってください、何より聴いていたくて・・・」
校長はそう言って祥子を制した。
「ほんとだ」
確かに校長は、もう既に光のブラームスに夢中になっている。
音楽部の練習を終え、光は音楽室を出た。
祥子先生と校長も一緒。
「いや、なかなかのものだよ、光君」
「君にこんな才能があるなんて、知らなかった」
廊下を一緒に歩く校長が少し興奮している。
「えっと、今日は帰る予定だったんですが、成り行きで・・・ついつい・・・」
光は顔を赤らめている。
「そんな謙虚なこと言わなくても・・・」
祥子も少し興奮気味なのか、顔を赤らめている。
「でも、楽しみだなあ、コンサートが・・・」
校長は心底期待しているようだ。
久しぶりに校長の顔に精気が戻っている。
光の動きについてボクシング部と言い、柔道部と言い、心配続きであったけれど、ここでやっと落ち着いたのである。
「はい、今日はお客さんが来るので、ここで帰ります」
光は、祥子と校長に頭を下げた。
「うん、明日もよろしくね」
祥子は明日の練習にも出るよう促す。
「あ・・・はい・・・」
いつもの光の力ない返事。
ただ、ボクシングや柔道ではないので、嫌がる顔ではない。
「はい、大丈夫です!」
ぼんやりと応える光の隣に華奈が立った。
少なくとも光よりは、ハキハキしている。
「心配いりません、引きずって来ます」
光は驚いて華奈を見るけれど、祥子と校長は大笑いになった。
「でも・・・あれ・・・」
大笑いする祥子と校長をよそに光の顔が変わった。
「校長先生・・・」
光が校長先生を見た。
「ん?どうした?」
校長は光の表情の変化の意味がわからない。
「え?あれ・・・うそ・・・」
祥子も、あからさまに嫌そうな顔をしている。




