第69話阿修羅と地蔵 春奈、光 それぞれの思い
「あの、ボクシングとかいう闘技も、柔道でも、上手に抑えられて」
地蔵は話題を変えた。
「ああ、子供じみた闘技だなあ、両方とも、こっちも遊びだ」
阿修羅は笑っている。
「あの柔道部の大きな男はそれでも力を込めたんですか?」地蔵
「いや、あれは勢いでな、多少怪我をさせたし、壁を壊したな」阿修羅
「まあ、あんな程度じゃ、この地蔵もどうのこうのは言いません」地蔵
「うん、ただな、この子の通っている学園の中では大したことはないが」
阿修羅は顔を少し曇らせた。
「・・・何か気になることが?」
地蔵が不思議そうな顔をする。
「うん、ある」
阿修羅は言い切る。
「それで、どうしますか?」
地蔵は阿修羅の本意を尋ねた。
「いや、糺すよ、何としても」
阿修羅は光を見続けている。
「そうですね、お手伝いします」
地蔵が頷いた。
春奈は、阿修羅と地蔵の話を聞き取っていた。
ほとんど納得できる会話であったが、阿修羅の「気になること」を懸命に考える。
それについては、学園外のことと阿修羅は言っている。
・・・となると・・・
春奈は、さっぱり思い浮かばない。
相変わらず光は、大の字になって寝ている。
光が心配していた英語のテストは、光にとって意外にスムーズに解答を書くことができた。
「昨日見た参考書がそのまま出た」
「二つか三つ、どうでもいいところでミスしたけれど、あれぐらいなら、あまり心配ないかな」
クラスの全員が、難しかったと声を上げる中で、光は涼しい顔をしている。
少なくとも、いつもの落胆した顔ではない。
以前から光は、英語が大の苦手であった。
他の数学や、国語、歴史の成績は常に校内でもトップクラスである。
ただ、体育は、もともとのやる気のなさから、成績評価は低かった。
苦手な英語が何とかなったことが気を楽にし、他の教科の試験も思い通りの答案を書くことが出来た。
「よかった、これで、すんなりと夏休みだ」
試験も終わり、変に絡まれたボクシング部や柔道部からも声はかからない。
野球は、もともと眼中にない。
後は、これから音楽部に行くか、それとも夏休みをしっかり休んでから二学期に入ろうかなと考えるぐらいである。
「でも、今から、音楽部に行ってコンサートの練習は、どうなんだろう」
「今まで同じメンバーで作り上げて来たアンサンブルが変になっても困るし」
光は、今まで一年間練習して作り上げて来た音楽に、自分の音が不用意に加わることによって、合奏としてのバランスがおかしくなると考えた。
それなら、夏休みはしっかりと休んで二学期新たな曲の練習から参加すればと思っている。
しかし、光の本音は別にある。
「この暑い中、面倒」
本音は、それ以外にはない。
今、光が合奏に加わったとしても、今まで作り上げて来た音楽を壊さない程度に、演奏すればいいだけであるし、それ程、難しいことではない。
結局、何事に対しても面倒くさがりやの光なのである。




