第65話ボクシング部からの卑劣な呼び出し
「由香利さん・・・綺麗すぎて、何を話していいのかわからなくて・・・」
光は顔を真っ赤にした。
そして頭をピョコンと下げて、いきなり駅に向かって、もの凄い速度で走り出してしまった。
「あら・・・」
由香利も、さすがに、この事態は想定していなかった。
「うーん、逃げ足早いなあ・・・」
「でも、ますます楽しみが増えた」
「美味しそうな子だなあ」
由香利は、ニンマリと笑っている。
光が家に着くと、ポストの中に手紙が入っていた。
差出人はボクシング部とだけ、書いてある。
手紙の文面を見ると、「本日夜七時、近くの公園で待つ」とだけ書いてある。
「どうしようかな・・・」
どう考えても、不審な手紙である。
このまま、のこのこと公園に出掛れば、おそらく旧ボクシング部の連中がたくさんいて、自分に対して、殴りかかって来るのは目に見えている。
「バカバカしい」
光はボクシング部員でもなく、出向く義務などない。
そもそも、ボクシング部は、その悪行が露見して廃部になっているはずだ。
光がそんなことを考えていると、春奈が帰って来た。
春奈としては、今日まで光の面倒を見る予定、明日は奈良の従妹楓が来る予定である。
光が春奈に、その手紙を見せると
「ああ、行く必要ないよ」
「おそらく、光君にやっつけられて、そして悪行がばれて廃部になったから、その仕返しでしょ」
「そんなのに付き合っている時間があるなら、英語の勉強をしていなさい」
春奈も、まったく取り合わない。
そして夕飯を作り始めている。
春奈には、光に話したこと以外にも不安があった。
「光君の力というか、阿修羅の力は段々、強くなってきている」
「あの巨漢の柔道部斎藤が、怪我をしてしまった」
「それでも、多少はコントロールしているのだけれど」
「怒るほどではないからかな」
「阿修羅に怒りが加わると、抑えるのは困難」
「特に公園だし、マットとか畳とは違う」
「叩きつけたりすれば、命だって危うい」
春奈としては、次第にその力を発揮しだしている阿修羅の力を、抑えたいと思った。
しかし、夜の公園となると、ボクシングだけではない、刃物でも持ち出されたら・・・絶対に阿修羅は怒ると思う、春奈の背中が震えた。
光と春奈が食事を終えて、夜の七時、ニュースの時間となった。
「行かないよね」春奈
「うん、行く必要ない」
光も、ボクシング部の手紙には全く興味が無い。
しかし、その興味の無さも、一瞬にして打ち破られた。
家の電話が鳴った。
光が電話に出ると、元キャプテンの声。
「おお、光君か、この間はどうもありがとう」
「どうしてもお礼を差し上げたくてね」
「そうは言っても、なかなか来ないだろうからさ・・・」
キャプテンは、ここで一呼吸置いた。
「光君の勇姿を見せたくてね、観客を一人連れて来た」
「もちろん、君の名前で、呼び出した」
「そう・・・華奈ちゃんだ」
「だからすぐに来ないと、華奈ちゃん,泣いちゃうかなあ・・・」
キャプテンは、卑しい笑い声を上げる。
受話器の向こうからキャプテンの笑い声に合わせて、ボクシング部員たちが華奈の泣き声の真似をしている。
そして華奈の泣き声がも、その声に混じって聞こえてくる。




