第6話炎天下、恥ずかしさにも包まれる光
「ああ、お久しぶりですぅ・・・」
春奈先生は圭子叔母さんと光を見て大笑いになった。
どうやら知り合いだったらしい。
おまけに光には「ヨクワカラナイ世間話」まで始めている。
しかし、光にとっては、困った事態が拡大したに過ぎない。
そもそも、この炎天下で笑いあって「立ち止まり話」をしている春奈先生と圭子叔母さんの神経と体力が全く信じられない。
「・・・いったい・・・この人たちって何?」
「灼熱で生きていける人種?」
「もしかして、日本人じゃないのかもしれない」
「とにかく恐ろしい人たちだ、しっかし、暑いよーーー」
「早く話終われーーー」
ただ、そんなことを言える性格の光ではない。
もう必死、「忍の一字で」耐えていた光の話題になったのは、およそ十分後だった。
それでも圭子叔母さんが、ようやく話題を変えたのである。
「何だ、楓が言っていた先生って春奈ちゃんだったんだ」
「それで光君、引きずって来たんだ」
圭子叔母さんは、大笑いになる。
「うん、私もねえ、もしかすると、なんて思っていてねえ・・・」
「それでね、圭子さん・・・あのね・・・この光君ってね・・・」
春奈先生は、圭子叔母さんの耳に口をあてて、ひそひそ話をしている。
圭子叔母さんは、笑いをこらえきれない様子。
口に手を当てながらも、笑い声が聞こえてくる。
「まあ、この子ね、小さい頃からそうなの、全く体力ってものが無いの」
「ねえ、本当に春奈ちゃんには、お世話になって・・・」
圭子叔母さんは頭まで下げている。
どうも学校の保健室のことも暴露されてしまったらしい。
光は、この時点で、心から後悔した。
先生の家が奈良の元興寺の近くとわかった時点で、もう少し人間関係を聞き出すべきだった。
そもそも、奈良に来なかったかもしれない。
そうすれば、こんなに恥ずかしい思いもしなかったし、笑われることもなかったと思う。
圭子先生に保健室のことを暴露されたら恥ずかしいことこの上ないのである。
「まあ、この子倒れても恥ずかしいから、取りあえず家に」
「春奈ちゃん、また引きずってきて」
圭子叔母さんは、笑いながら「ようやく」歩き出した。
そして、歩きながら携帯で電話をしている。
相手はすぐにわかった。
「楓、光君来たよ」
「それがね、春奈ちゃんと一緒」
「大笑いだよねえ、アハハ」
「まあ、ちゃんと先生の名前を言わないのも光君らしくていいじゃない」
「取りあえず、お昼なんとかしておいて」
「ああ、春奈ちゃんの分もね」
「まあ、すごーく光君、お世話になっているらしいから」
光は、聞いていて呆れてしまった。
「だいたいさ、ありえる?」
「この炎天下で長話してさ」
「そのうえ、こんな大声でひ弱だとか、なんとかさ」
「ほんと、無神経の極みだ」
「これが叔母さん?」
「そして担任?」
「うーーーー・・・」
「でも、暑いよーーー」
「クラクラしてきた」
「叔母さんの家まで歩けるかなーーー」
光は灼熱の太陽の中、より一層の恥ずかしさに赤面し、歩いていくより他はなかった。