第55話光襲撃計画の情報
坂口は、柔道部室に戻り、憔悴している柔道部新顧問の山下の肩をたたいた。
校長も柔道部室に座っている。
「まあ、信じられないだろうが・・・目の前で起こったことは事実なんだ」
「校長も他の学生たちも、この俺も見ている前で、柔道初心者の光君になあ・・・」
「しかしな・・・」
坂口は、柔道場で光と立ち会った選手を手招きした。
頭と腕に包帯を巻いた斎藤もいる。
「お前たち、どうだった・・・」
坂口が尋ねる。
「いや・・・もう、あっと言う間に」
「こんな相手は初めてで」
「足払いだけで宙に舞うって」
全員がポカンとした顔になっている。
「いや、怖いなんてもんじゃなくて」
斎藤は、まだ身体の震えが止まらない。
「確かに反動で投げられたんですが、投げられる途中で、もの凄い力を感じました」
「それで受け身も何も・・・あっと言う間に壁で、どうにもならなかった」
「空中で、また何か力が加わったような・・・」
そこまで言うとまた斎藤は震えが激しくなった。
ずっと黙っていた野村が口を開いた。
「出来れば、柔道を一緒にやりたいけれど・・・」
「あの身体の使い方とか、足さばきは見ていて参考になります」
「そうは言っても難しいでしょうが」
野村の言葉に全員が頷いている。
野村は、更に付け加えた。
「ここでの話とは違いますが、ちょっと心配な噂を聞きました」
本当に心配そうな顔になる。
「何かあるのか」
坂口が野村の顔を見た。
他の柔道部員や顧問山下も、野村の次の言葉に注目する。
「以前、柔道部とこうなる前に、ボクシング部と少しあって・・・」
「ボクシング部は大きな問題があって、廃部になったんですが」
「ボクシング部の、前のキャプテンが逆恨みをして、光君を夜襲うらしいって・・・」
「さっき、元ボクシング部の連中が、廊下の隅でヒソヒソ話をしているのを聞いてしまったんです」
野村の顔が青い。
「うーん・・・」
坂口は考え込んだ。
「あれ程の逸材、護りたいなあ・・・」
新顧問がつぶやいた。
「しかし大会前で、こちらも問題を起こすわけにはいかないなあ・・・」
坂口は、新顧問の顔を見る。
校長も新顧問も黙り込んだ。
なかなか、対応が難しいようである。
春奈は、怪我をした斎藤に応急手当を終えてから保健室に戻った。
「うーん・・・そろそろ怪我人が出るかなと思っていたら、本当になった」
「斎藤君が頑固な身体だったから、あの程度で済んだけれど」
「それも、阿修羅とては、計算していたのかな、だとすると、まだコントロールができている」
「問題は、人の多い所とか、路上であんなことをすれば、もっとひどい怪我になる」
「そうなると、大変だなあ」
春奈は真顔である。
とにかく先行きが心配でならない。
