第52話またしても異変発生
その上、光はとんでもないことを言い出してしまった。
「ああ、何でもいいですから、早く終わりましょう」
「柔道着なんていりません」
「この後、テスト勉強もしないと・・・英語まったくさらっていないんで・・・」
光は、おっとりとした顔で新顧問を見ている。
「何!」
新顧問は、光の「バカにしたような言葉」で、いきなり怒りが頂点に達した。
柔道初心者に全く舐められているとしか考えられない。
そもそも、光の英語のテストなんて「柔道部の名誉」に何も関係が無いと思っている。
「いいから、叩きつけろ!」
およそ、教育者たる言葉とは思えない言葉で、まず中量級の選手中村を光に立ち合わせた。
この選手も、高校総体全国大会で六位の選手である。
その中村は光を見てせせら笑いを浮かべる。
「おい、都大会三位止まりの善人野村とロートルの前顧問を倒したからっていい気になってんじゃねえ」
「新顧問から、お墨付きもらったぜ、投げ飛ばして、アバラ骨折れるかもしれないから覚悟しろよな」
「ふん、こんな弱々しいガキみたいなのに・・・」
そのまま、光の顔を、まるで叩くかのように手の平を向けた。
半分は目つぶし、かわされたら襟を掴んで投げ飛ばす危険な技である。
「まずい!」
校長と坂口は顔を青くするけれど、新顧問は、ニヤニヤと笑っている。
「あれっ・・・」
しかし、中村はなかなか、光を掴むことが出来ない。
掴むと思った瞬間、光の身体がそこにない。
「この野郎!」
「逃げやがって・・・」
中村は何度も同じ動きを繰り返すが、どうやっても同じ。
しかも、光は足の位置を全く変えていない。
突然、光が新顧問に振り向いた。
そして質問をした。
「あの、僕が何か技を出すと問題になりますか?」
「え?」
これには新顧問も坂口も、驚いてしまう。
つまり、光は自分が柔道部員ではないから、柔道部員に技を仕掛けると問題があると考えていたのである。
「ああ、そんなことはない」
校長から声がかかった。
校長としては、せめて柔道初心者に対する「無抵抗リンチ」のような状況は避けなければならない。
もし、そんな状態で目の前で光が怪我をしたとすれば、それこそ柔道部だけではない、学園全体の大きな問題になりかねない。
「わかりました」
すると、光は笑いながら答えている。
「何だと!」
その笑いと言葉が中村の感情に火をつけてしまった。
「笑いながら・・・この野郎!」
あれ程かわしながら、手出しをあえてしなかった光に腹が立った。
まるで「ナメられている」と感じたのである。
「わっ・・・・」
しかし、次の瞬間、異変が発生した。
なんと、中村の身体が宙に高く浮いてしまった。
そして、ほとんど受け身も取れず、畳に頭から叩きつけられたのである




