第50話光を待ち受ける人たち
「え?」
由紀の、顔色が変わった。
「そのお世話って何?」
「いくら従妹って言っても限度がある」
由紀は、顔がマジになった。
光の次の言葉を、ジリジリとして待つ。
「うん、茶粥を作ってくれて一緒に食べた」
「何しろ、自分の家で、誰かと食事をするって久しぶりで・・・何年ぶりかな、六年ぶりで洗い物までやってもらった」
「昨日は身体が痛かったから、本当に助かった」
光は、たどたどしいながらも、お世話の内容を話す。
「そうかあ・・・」
由紀をはじめとする女子学生たちは、ホッとした顔になった。
と、同時に光の下を向いた顔に、何かを感じるようだ。
「うん、そうだよね、ずっと家で一人なんだよね」
「私なんて、母とか兄弟とかいるけど、一緒に食べないけれど・・・」
「家族がいて、一緒に食べないのと」
「誰もいないのとは、違うよね」
「茶粥かあ・・・滅多に東京じゃ食べないけど」
「さすが、春奈先生だね、考えている」
「大丈夫だよ、歳も離れているし、取られることもない、従妹だし」
いろんなことを言って、ようやく朝のクラスは、おさまった。
しかし、なんとか光のクラスはおさまったものの、手ぐすねを引いて待っている者が、他にもいた。
光にやっつけられた柔道部関係者である。
「そうか、出てきたのか」
柔道部新顧問の山下はニンマリとする。
光が昨日突然休み、先週に引き続き二回も肩すかしをくらってしまった。
何としても名誉挽回をしなければならない。
早速光と同じクラスの野村を柔道部室に呼んだ。
「何とか、光を柔道場に呼び出せ」山下
「え?光君は柔道部員じゃありませんが・・・」
「それにまだ、身体がつらそうですよ」
野村は新顧問の意図がわからない。
「野村、そういう人の良さがいかん」
「勝負事で、人の良さを出しているから、都大会でも三位」
「おまけに、柔道初心者の光に手加減して、技はかけられない、あげくのはてに投げられたりする」
新顧問は引き下がらない。
「いや・・・申し訳ないんですが、人の良さはともかくとして、光君には手加減などしていません」
「前の顧問先生だって手加減していませんよ」
野村は、真面目な顔で否定する。
「ダメだ、原因はともかく柔道部の面子を汚されたんだ、仕返しは必要だ、示しがつかん」新顧問は後に引かない。
「うーん・・・」
野村は自分が光に何も通用しなかったけれど、あくまでもそれは自分に非があるし、前顧問の音楽室での行状も、どう見ても前顧問に非があると考えている。
そのため、応えをためらってしまう。
「煮え切らないやつだなあ・・・」
新顧問の顔が赤くなってきた。
「それにな、坂口さんがどうしても見たいって言っている」
新顧問は坂口の名前まで持ち出した。
しかし、坂口に光の話をしたのは、新顧問。
坂口を引っ張り出せば、超大物の名前の力でことがすんなり進むと考えたのである。
「わかりました」
野村にとって憧れの超大物の坂口の名前が出てしまっては仕方がない。
野村は、どうして新顧問が自分の力で対応できないのか不満に思うが、光を柔道部に呼び出す指示を受けることにした。




