第48話春奈と夕食、そして翌朝
春奈は、未だ体力が回復しない光に何を食べさせるのか、考えた。
「おそらく、今日は何も食べていない」
それは冷蔵庫の中と、ゴミ箱を見れば一目瞭然。
「とりあえず消化にいいものかな」
お米は買ってあったので、お粥を作ることにした。
「それでも普通のお粥だとつまらないから」
奈良の叔母さんの家で食べた茶粥にした。
ほうじ茶と漬物で茶粥を作り、光に食べさせた。
「どう?美味しい?」
春奈が尋ねると、光は素直に頷いた。
素直に茶粥を啜っている。
「ありがとう・・・」
食べながら何度もお礼を言う。
「うん・・・いいよ・・・心配だったから」
いつもと少し違う光の素直さに、春奈は胸がキュンとなった。
「この家で、他の人と食事するの、本当に久しぶりで」
光は、少し涙ぐんでいるようだ。
「うん・・・」
確かに広い家で、何年もほとんど一人きりで過ごしてきている。
春奈は、光が自治会の運動会で倒れなければ、そして自分がいなければ、光がこの家で奈良の茶粥など食べることも無かったと思う。
既に高校二年生となったけれど、今まで小学校高学年から、ほとんど一人で食事をしてきたことを、奈良の叔母さんから聞いた。
それは、本当に寂しかったのだろうと思う。
「うん、食べられるだけでいいよ」
春奈は、これ以上光に神経を使わせたくなかった。
食事を終えた光をすぐに寝かせた。
洗い物に立とうとした光を、断った。
光もまだ頭がクラクラするらしく、素直に春奈の厚意に甘えることとなった。
春奈は、光がピカピカに磨き上げた風呂に入ってから、光の母の部屋で眠ることにした。
「ここも、完璧に掃除してある」
もう、亡くなって六年である。
しかし、誰も使っていない部屋を、懸命に掃除しているようだ。
その部屋の机の上に、光の母の写真が置いてある。
「うん、この人昔見たことある」
春奈には光の母の記憶がある。
「奈良で見たのかな。綺麗な人だなあ」
「光君によく似ている」
春奈は、光の母の写真に手を合わせた。
朝になった。
奈良の家ほどではないが、蝉がかなりやかましい。
春奈は、着替えて光の部屋のドアを開けた。
一応はノックした。
「光君」
春奈がドアを開けるけれど誰もいない。
「あれ?」
春奈は不思議に思うけれど、とにかく部屋の中にはいない。
ベッドも綺麗に整えられている。
「ああ、ここです」
後ろから声がかかった。
光が立っていた。
しかも制服を着てしまっている。




