第47話案外キチンとした光君の私生活
春奈は、光の自転車で自宅へ戻り荷物を持って戻って来た。
そして春奈は、眠り呆け居ている光をそのままにして、家の中をいろいろと見ている。
「ふぅーん・・・」
「この子って案外」
春奈は、感心している。
何しろ、ゴミが落ちていない。
掃除も行き届いている。
「私の家より、整理整頓できている・・・」
それに床はピカピカ、お風呂もトイレもピカピカに磨き上げられている。
また洗濯物も本当に几帳面に折りたたんである。
ただし、冷蔵庫の中はあきれてしまった。
何しろ、入っているのは奈良でもらった漬物だけ。
飲み物は何も入っていない。
春奈としては、光がいかに「コンビニ中心の食生活」といっても「程度」があると落胆してしまう。
しかし、母親を早く亡くし、父親も出張が多くほとんど家にいないとなれば、こういう食生活でも、仕方ないとも思う。
「自分が一緒に住めるわけでもないし」
春奈は、どうにもならない状況を理解した。
とりあえず二、三日面倒を見て、楓が上京すると言う。
そこまで、少し世話ぐらいをするつもりである。
家の中を歩いて光の部屋に戻った。
相変わらず真っ赤に腫れ上がった顔をして、眠っている。
「しょうがないなあ・・・」
光は、まだあどけない顔をしている。
顔そのものは美形、整っている、いわゆる野卑さが全くない。
「なんとなく似ているかも」
光の机の上に、奈良で買った阿修羅グッズが置かれている。
手に取って阿修羅の顔と光の顔を見比べて見たりする。
「あれ・・・」
そんな春奈の目に一冊の本が止まった。
「へえ・・・」
手に取ったのは「阿修羅写真集」。
阿修羅を様々な角度で撮影し、解説もある。
「やっぱり、好きなんだ」
奈良の叔母さんと楓から、光は子供の頃から、阿修羅を見に行きずっと見ていたと聞いた。
しかし写真集を買うほど好きとは考えていなかった。
「やはり、阿修羅とはつながっているのかな」
興福寺からずっと、光に阿修羅が乗り移っている。
それは、確信している。
それもこれも、光が阿修羅を好きだからと思う。
春奈がそんなことを思い、光を見ていると、光が目を開けた。
「春奈先生」
「すみません、面倒おかけしまして」
光のたどたどしいお礼である。
「でも自分で何とかしますので大丈夫です」
熱中症か、他の何かなのか、わからないが光の顔が赤い。
つまり、春奈の「付き添い看護」を遠慮している。
「ああ、だめよ、まだ・・・」
「まだ食事もさせていないし」
春奈は、光を見つめたまま動こうとはしない。
「それにね、明後日までこの家では、先生じゃないよ」
春奈は笑った。
「え?」
光は理解が出来ない様子である。
「従妹の春奈さんでいいからね」
「だから明後日まで、ここに泊まって面倒見るよ」
春奈の目は笑っている。
春奈は続けた。
「それにね、奈良の叔母さんに頼まれたし」
「え?」
光は驚いた顔になる。
「それからもう一つ」
春奈は、含み笑いをする。
「私の次に、楓ちゃんが来るって」
春奈がそれを告げると、光は布団を頭からかぶってしまった。




