第46話この光では春奈先生が可哀想だ
「ああ、光君ね、アヤシイなんてことないよ」
「光君ね、よく調べたら、奈良で古くから親戚みたいなの」
「歳も離れているしね」
春奈としては、それでも、必死に取り繕う。
そうでも言わないと、女子学生たち、特に由紀の自分を見つめる目が真剣そのものなのである。
「まあ、どうなることやら・・・」
特に、由紀はなかなか納得しない。
「ところで、貴方たち、どうしてここにいるの?」
春奈は、再び確認する。
「もー、どうしたもこうしたもないですよ」
他の女子学生が声をあげた。
「急に光君休むから、ねえ・・・みんな心配になって・・・」
「とりあえず井の頭線を使っている私たちがお見舞いに来たんです」
「そしたら、春奈先生が玄関から出てくるし」
「しかも!光君の自転車乗っているし!」
「誰が見てもアヤシイじゃないですか!」
他の女子学生も、いろんなことを言う。
「あはは・・・」
あまりの真面目な表情に春奈は、思わず笑ってしまった。
「まあ、何もないよ、さっき言った通り、かなり近い親戚だしね、悔しいけれど歳も離れているしね・・・光君の叔母さんから面倒見てって言われたの」
「それから、ちょっと身体を見たけれど、まあ日焼けというより火傷だったから、明日もう一日休ませる」
「これは、保健室の先生としての判断」
「それと、今の状態はとにかく休ませなければならないから、貴方たちせっかくお見舞いに来てくれてうれしいけれど、今日は無理よ」
春奈は諭すが、それでも女子学生たちは、納得しない。
「しょうがないなあ・・・ちょっと見ていく?」
由紀たちは、どうしても光を見ないと納得しないようである。
仕方なく、春奈は玄関を開けて、光を見せることにした。
「玄関の鍵まで持って、ますますアヤシイ」
由紀がブツブツ言っているが、春奈は聞き流す。
「うーん・・・誰?」
光の部屋に女子学生たちを案内すると、光はそれでもうっすらと目を開けた。
「うん、光君のこと、心配で」
「大丈夫?顔真っ赤だね」
「早く出てきてね、迎えに来ようかな」
女子学生たちから、口ぐちに心配の声がかかる。
「春奈先生とは?」
ところが由紀は、光の状況とは、直接関係が無いことを聞く。
「え?春奈先生?」
相変わらず、弱々しい光の反応である。
春奈は、あまりの弱々しさに、笑いを隠し切れない。
しかし、次の光は何ともボケた答えをする。
「ああ・・・お父さんに昨日聞いたんだけど」
「春奈先生って、古くからの親戚だって」
これには、春奈もびっくりである。
奈良の家で、何の話を聞いていたのだろう・・・
まるで光の耳は「いい加減そのもの」である。
春奈は、本当にあきれてしまった。
「え?何で?光君知らなかったの?」
これには、由紀をはじめとする女子学生たちも驚いた。
少し春奈先生が可哀想に思ってしまう。
それでなくても、光は授業中に今まで何度も倒れ、春奈先生には「散々お世話に」なっていることを思い出すのである。
しかし、この光の「大ボケ発言」が女子学生たちの怒りを「あきれ」に変えた。
そして彼女たちも、ヒソヒソと相談の結果、これで「一応」心配はしないことになったのである。
「わかりました、春奈先生に、ちょっとだけ面倒を見てもらいます」
「でも、何かあったらすぐに飛んできます」
そういい終えて、由紀達は帰って行った。
「む・・・何かあったらって何よ」
春奈は、女子学生たちにもあきれている。
「あの子たち、光君の彼女でも何でもないのに」
「どうして、この私が疑われなきゃならないの」
「まあ、それもうれしいけれど・・・」
「それでも、まあ、この子の鈍感さは・・・生まれつきだから、しょうがないけれど」
春奈は、また大の字になって眠り呆けている光を複雑な想いで見つめていた。




