暴走トラック運転手と運送会社が判明
「光様のお母様がお亡くなりになった日、例の暴走トラックの運転手と運送会社の現在が判明しました」
官房長官の話し方は慎重を極めた。
首相、法務大臣、ソフィーまで含めて光の表情を注視している。
すると、光のボンヤリ顔はいきなり変化した。
口をきつく結び、首相、官房長官、法務大臣に頭をしっかりと下げた。
「本当にありがとうございます」
「私も法律違反を犯してまでは、その運転手と運送会社を追求することはしません」
「ただ、事実を教えてください」
光の顔は、恐ろしいほどに真顔である。
その後、運転手と運送会社の現在は、官房長官から告げられた。
運転手の現在は、かつて政権を取った政党の大物政治家の運転手であること、運送会社はその政党に以前から多大な政治資金を寄付していること、飲酒運転をして救急車両との接触事故も当時政権を担っていた政党との強い関係で不問とされていた事実を告げられたのである。
「ねえ、光君、どうする?」
別室を出た光にソフィーが心配そうに尋ねた。
「いずれにせよ、法律を犯してまでは追及はしない」
「ただ、法律を犯して、それを金と政治権力の力でゴマカシてノウノウと生きるなんて、全く許せない、事実は明らかにする」
光の目が恐ろしく輝いた。
再び宴会室に戻った光を巫女たち全員が取り囲んだ。
どうやら、首相、官房長官、法務大臣との話を読んでいたらしい。
「とにかく菜穂子さんの敵討ちをしないと、死んでも死にきれない」圭子
「金と権力を盾に不正を働く、ほんとうにゴウマンそのもの、絶対許せない」美智子
「これは菜穂子さんだけの敵討ちじゃないよ、どれほど哀しかったか・・・」ニケ
「私も由紀さんも全面協力します」由香利
「わかった、徹底的にやるよ!」ソフィー
巫女たちから、怒りと追及の声が続いた。
光の顔はさらに引き締まっている。
官邸での宴会後、全員が光の家に集まった。
まず、ソフィーが口火を切った。
「とにかく、過去から現在までの徹底調査を行います」
「その運送会社の政党との関係、運転手の経歴」
「政治家の名前もわかりました、よく国会で威勢はいいものの、首相にブーメラン対応されて論破される人、それでも政党内では力がある」
「その政治家の活動歴、政治資金報告書も徹底して調べます」
「首相、官房長官、法務大臣から全面的な協力も約束されています」
ソフィーの調査方針について、全員が頷く中、圭子は目を閉じて聞いている。
「見通しの巫女」である圭子は、何かを読んでいるらしい。
圭子が口を開いた。
「とにかくとんでもない運転手、運送会社、政治家だね」
「ちょっと読んだだけで、ズラズラ出て来る」
美智子が次に口を開いた。
「その政治家の事務所に乗り込むの?」
まず圭子に尋ね、次に光の顔を見た。
「まあ、一度行くことは行くかな、明らかにすることは当然さ」
「ただ最終的な断罪は・・・」
光の顔が厳しくなった。
そして、あまりの厳しさに誰も何も言えなくなった。
ソフィーの正式な調査を待つとして、その日は圭子、楓、春奈の母美智子が光の家に泊まることになった。
帰り際に、華奈、ルシェール、由香利、由紀が寂しそうな顔になったけれど、何しろ「いとこだもの」と言い張る楓には負けてしまった。
「ふん、どうせ候補者になれないからいいや」華奈
「春奈さんだって、お母さんがいるから、抜け駆けできないしさ」ルシェール
「それより楓ちゃんのニンマリ顔が悔しい」由香利
「ほんと、ご機嫌だね、またあれで大食いして怒られればいいさ」由紀
帰ることになってしまった候補者たちは様々陰口をたたいているけれど、一様に期待するのは「ソフィーの迅速な調査」である。
ソフィーも実は楓の「ニンマリ顔」が気に入らなかったのか、光の家を出た途端、観音様に変身、早速調査を開始した。
そんな他の候補者の「ムカツキ」など何も考慮がない楓は、光にピッタリと寄り添い離れようとはしない。
これには、家に残った全員が呆れている。
「あのさ、それは自分だけいつも奈良っていう寂しさはわかるけどさ・・・」圭子
「どうして何から何まで世話を焼きたがるのかなあ、同い年でしょ?」春奈
「でさ、遠目に見ていると楓ちゃんの体型が史さんだしさ、光君が菜穂子さんだよ、面白いねえ」美智子
「本当だね、楓を好きになる男の子っているのかなあ、私は光君より楓が心配だ」圭子
「うーん・・・子供の頃は可愛かったねえ」春奈
「圭子さんは、スタイルがいいのにねえ・・・」美智子
様々、「アキレ声」が飛び交うが、結局寝る時間まで、楓の光への「ピッタリ寄り付き」は変わらなかった。




