ソフィーに抱きしめられる光、様々なピザ
「まあ、阿修羅の聖なる火、命の火がようやく宿ったのかなあ」
「それで、暗闇の神も阿修羅に組み付かれた時に、異様に暑がったのか」
ソフィーは不思議なことを言い、話題を変えた。
「さて、光君」
口調も固くなった。
公安調査官の口調になった。
「卒業式、謝恩会の翌日、首相官邸です。お礼をされたいようです」
ソフィーは、真正面から光の顔を見る。
「うーん、また、あの装甲車みたいなのに乗るの?」
「でも、大丈夫だよ、行きますと伝えてください」
光がそう答えると。ソフィーはさっそく、おそらく官邸だろう、メールを打っている。
「うん、ありがとう、光君」
ソフィーはニッコリ顔で立ち上がった。
そして、そのまま光に近づき、いきなり思いっきり光を抱きしめてしまった。
「もう!あんな熔鉱の浄めなんか、本当に心配したよ!」
「万が一、光君が死んじゃったらどうするの!」
「そりゃ、八部衆の神とか、観音様とか天使とかイエスもいるけどさ!」
「寒川様が、身体の奥の火をつけたって言っても、あの光君だよ・・・」
どうやらソフィーは光ではなく、阿修羅と話をしているようだ。
「阿修羅の闘いは、時々、寄りましに危険すぎる」
最初は、ニッコリ顔であったけれど、言葉が終わる頃には涙顔になっている。
ソフィーはしばらく光を抱きしめた後、ピザ作りのため、キッチンに入った。
途端に華奈が、鼻をクンクンとさせソフィーのところにやって来る。
「え?華奈ちゃん、どうかしたの?」
ソフィーもいきなりの華奈の動きにウロタエ顔になる。
ただ、ソフィーを怪しむ声は、他の巫女たちからも、浴びせられる。
「うーん、どうして、二人だけの抜け駆け行動が多いのかなあ・・・」春奈
「そういうのは、公私混同というのでは?」ルシェール
「私は、この時代では一度もハグが無い」由香利
「私は前世で、たくさん愛してもらったけど、この時代だと手をつなぐ程度だ」由紀
ただ、候補者の巫女たちと母親世代は微妙にコメントが異なる。
「へえ、私、光君とお風呂入ったよ、可愛かった」美紀
「美紀さん、それって子供の頃でしょ?私だってあの時一緒じゃない」ニケ
とにかくリビングでボンヤリしている光が聞いたら赤面するような会話が続いている。
「でもいいや、みんなが帰ってから光君と二人きりだし、いくらでもチャンスはある」春奈
「それでも私は愛の妙薬の実績があるし、ハグもある、まだまだ一歩リードさ」ルシェール
「今度、私の家で連弾しよっと、その時がチャンスだ」由香利
「過去世とはいえ、直接肌を合わせた感覚を思い出させたのは、私さ、光君きれいな肌していたなあ、私も音大をめざすとして、まだまだチャンスがある」由紀
候補者の巫女たちがいろいろ考えるなか、ピザは焼きあがったようである。
定番のモッツアレラチーズとバジリコのマルゲリータや魚介類を乗せたペスカトーレ、バジルとアンチョビのピザ、舟の形をしたトルコ風ピザもある。
「さすが、マルゲリータは定番中の定番、落ちつく」
光は巫女たちの想いはともかく、食欲がある。
「ペスカトーレは、さすがニケとソフィーが持ってきてくれた魚介類が新鮮、噛みしめるほどに美味しい」春奈
「バジルもいいなあ。風味がなかなか」由香利
「トルコピザは、生地がパンに近いね、ふんわりサクサク、お肉も玉子も入っていて具だくさんだね」由紀
「うん、でもみんな美味しいや、さあ、光さん、たくさん食べてね」
今までほとんど黙っていた華奈は、ピッタリと光の隣に座り、いろんなピザを器用に取り分けていく。
多少華奈の動きが気になるものの、他の巫女たちは凄まじい闘いの後、ホッとしているようである。
そのためか、なごやか、落ちついた雰囲気の中での食事会になった。
食事の後は、珈琲を飲み、しばらく談笑の後、ソフィーが全員を送り届け帰って行った。
ようやく光の家には、春奈と二人だけの状態になった。
「光君、お疲れさま、緑茶にしたよ」
春奈は、丁寧に緑茶を淹れ、光の前に置いた。
光も美味しいらしく、うれしそうに飲んでいる。
「本当に大変だったね、御苦労さま」
春奈は、ようやく決着をつけた光と阿修羅の両方にねぎらいの言葉をかけた。
「そうだね、大きな闘いは終わって、しばらくはないよ」
少しだけ光の口調が変わった。
光の目の光が強くなった。
「ただ、人が他人を妬む心は、全ての悪思、悪語、悪行の原因となる」
「また、いずれ闇の神は、それを集めて蘇る」
「その時期については、ここでは言えない、ただある程度の時間は、平和が続く」
「細かな人間界レベルの小競り合いはあるにしても、この光君の生きている間は大きなことは起きないよ」
「本当に、春奈さんには感謝さ」
その言葉で光の目の輝きが消えた。
いつもの、トロンとした光の目になった。
「そうかあ、取りあえず平和かあ・・・」
「阿修羅様が、そう言うんだから心配はないね」
「光君の身体も守られたしなあ・・・」
春奈は、何となく光の隣に「より近くに」と思った。
「ねえ、光君」
そう思ったら、春奈はタメライなど何もない。
いきなり光の隣にピタリと座ってしまった。
「え?春奈さん、どうしたの?」
案の定、光は真っ赤な顔になっている。




