第4話阿修羅のポーズ
「えっと阿修羅が見たいなあと」
ほんの口から出まかせであった。
阿修羅は確かに見たかったけれど、特に今日でなくてもよかった。
ただ、この酷暑の日でも、阿修羅は冷房の効いた興福寺の国宝館にいる。
そこまでたどり着ければ、奈良町の元興寺から歩き、フラフラになった身体をイタワルことができる。
そんな程度の「出まかせ」である。
「ふぅーん・・・阿修羅ねえ・・・」
春奈先生はますます、見つめてきた。
月並みな答えであったと思った。
奈良公園で有名な「誰でも知っている」仏像といえば、東大寺の大仏か興福寺の阿修羅である。
子供の頃から奈良に行くことが多かった光が、しかも奈良出身の春奈先生に、そんな月並みな答えをしてしまい、春奈先生の反応が不安になってしまった。
「うん、やっぱりそうか、面白い」
しばらく光を見つめていた、春奈先生がようやく反応した。
「面白い?」
光にとっては意外な反応である。
光としては、あまりにも月並みな答えであって、笑われるのがオチと思っていたからである。
「うん、何だろうねえ、光君ってさ」春奈先生
「はい」光
「阿修羅グッズが似合いそう」
春奈先生は変なことを言いだした。
「阿修羅グッズ・・・ですか?」
そもそも、阿修羅グッズの意味がよくわからない。
「ああ、大したことないよ、阿修羅のストラップとか、Tシャツとか、メモ帳とか、興福寺の売店で売っている阿修羅グッズのこと」
「案外ほかの店で売っていないし」
「まあ大仏グッズは全く似合わない」
春奈先生はそう言って笑うけれど、何故そんな話になるのか、全く分からない。
「そう言われてもねえ・・・」
どうにも答えられないのである。
「じゃあ、光君、少し両腕を広げてから、手を合わせて見て」
春奈先生は、またしても理解しがたいことを言い出した。
しかし、それ程難しいことではないので、言われる通り両腕を広げてからゆっくりと手を合わせて見た。
「へぇーっ・・・」
春奈先生は、じっと見ている。
また緊張してしまう。
「うん、やはりだな」
春奈先生は不思議なことを言った。
「やはりって何ですか?」
よくわからないので聞いてみる。
「うん、その答えは、阿修羅の前で教えてあげる」
春奈先生はにっこりと笑っている。