イエスの降臨と命の水
「う・・・ついに・・・噴火か・・・」
ミカエルが富士山の山頂を見上げると同時に、富士山の大噴火が始まった。
ものすごく高く火柱があがり、火砕流が八本の筋に分かれて恐ろしいほどの勢いで流れ出して来る。
「大丈夫です、ここから先に、市街地には流しません」
地蔵が再び錫杖の鈴を鳴らすと、八本の火砕流は途中で突然停止、先端が赤黒い固まり、まるで竜の頭のような形に見えている。
「悪も善も深い故、しばらくは続きます」
地蔵の言葉通り、激しい噴火と火砕流がしばらく続いた。
しかし、阿修羅の姿は富士山の火口に入ったまま、全く見えない状況が続いている。
「あっ!」
まずソフィーが声を発した。
ソフィーはいつの間にか、観音菩薩の姿から戻っている。
火砕流がようやく止まり、地に溶岩として固まった。
そして未だ赤々と燃える溶岩の中に、動く人影が見える。
しかし、人影の動きが本当に弱い。
起き上がっては転ぶ、それを繰り返している。
「ソフィー様、カルラ様!サカラ様!」
ゴブジョーからソフィー、カルラとサカラに声がかかった。
カルラはソフィーとサカラを乗せ空に舞い上がった。
そして、動く人影に近づき、青白い雨を降らせた。
「これこそ、サカラ様の清浄水」
地蔵がつぶやく中、ソフィーの腕が伸び、焼け焦げた人間を拾った。
その焼け焦げた人間は、ぐったりとしているけれど、息はしているらしい。
ソフィーが、見守る地蔵や八部衆、アポロ、ミカエルに手を振って応える。
「ほお・・・生き残ったんだ」ミカエル
「光君、がんばった」ヒバカラ
「素晴らしい子だ、こんなに成長するなんて」キンナラ
「ああ、阿修羅もいいところあるなあ」ケンダッパ
「これで、なかなか文句も言いづらいなあ」ゴブジョー
神霊界の神、天使から様々、お褒めの言葉がかけられる中、光とソフィー、サカラを乗せたカルラが戻って来た。
鳥神カルラからサカラとソフィーによって、草原に降ろされた光は、ほぼ全身が火傷の状態、真っ赤に膨れ上がっている。
息はかろうじてしているものの、かなり危ない状態なのか、痙攣が始まっている。
阿修羅以外の全ての八部衆、天使長ミカエル、ソフィー、天神アポロが見守る中、地蔵の顔に涙がにじんだ。
「とにかく凄まじい闘いだった」
「今は、阿修羅様の力、この子に寄せられる巫女たちの想い、この子に残った僅かな生命力が、命を支えている」
地蔵は天を見上げた。
「やはり、降りて来てもらうとしよう」
その地蔵の言葉と同時に、広い青空の一点に光が浮かんだ。
「ほお・・・降臨ですね」
天使長ミカエルはうれしそうな顔になった。
「光の御子、癒しの御子か」
天神アポロも頷くと、ソフィーが、その「光の御子、癒やしの御子」に向けて、背中に羽を生やし、飛び上がった。
「やはり、先導するのはソフィーつまり観音様の巫女か、大天使ガブリエルの別の名前でもある」ゴブジョー
「そうだなあ、彼の受胎告知も行ったのも、実は観音様で、大天使ガブリエルさ」ケンダッパ
「そうなるとイエス独特の秘儀が見られるのか、久しぶりに」サカラ
他の八部衆も青空から光輪に包まれて降りて来る存在をイエスと認識しているようだ。
一様に、懐かしそうな、うれしそうな顔になっている。
「ふう・・・さすがに阿修羅様、凄まじい戦いでした」
ソフィーに導かれ、純白の長衣に身を包み、光り輝くイエスが姿を現した。
そして、草原に寝かされ痙攣を続ける光の前に降り立った。
「おお!イエス君か!」
地蔵は深々とイエスに頭を下げ、手を合わせた。
その地蔵の所作を他の全ての諸神、天神アポロ、天使長ミカエルもイエスに対して行っている。
「いや、阿修羅様と地蔵様にお願いされては、受けないわけには」
イエスは、にっこりと笑った。
「それに、この子も、癒しの素質が高い、人の心も神仏の心も引き付ける、まだまだ天に召すことは出来ません」
「阿弥陀様からの期待も高い」
イエスは、痙攣がひどくなっている光の前に座り込んだ。
「命の水を」
イエスはしばらく呪文を唱えた後、長衣から、小瓶を取り出し、蓋を開けた。
そして、光の口の中に、少しずつ流し込む。
「・・・美味しい・・・」
光の口から小さな声が発せられた瞬間。
光の身体全体がイエスと同じように輝いた。
本当に光の身体全体がまぶしく見えている。
今まで、地蔵菩薩の宝珠の中にいて、一部始終を見つめていた巫女たちも目を閉じてしまっている。




