阿修羅VS暗闇の神 最古の秘儀溶鉱の浄め
「キン!」
「カッ」
「ガキン!」
天空の上で、激しく善と悪の闘いが繰り広げられている。
「凄まじい闘いです、結果は見えているにしても、とにかく倒さないといけない」
地蔵は厳しい顔で戦闘を見つめている。
しかし、双方なかなか、決着がつかないようだ。
空も青空になる、真っ暗になる、まるで一定しない。
「それでも・・・」
地蔵の顔が引き締まって来た。
その地蔵の顔の引き締まるにつれて、黒い異形の神、天使の姿が薄くなって来ている。
「そろそろですか、阿修羅様」
地蔵は阿修羅を見た。
地蔵は厳しさ極まりない顔になっている。
「ああ、そろそろ決着をつける」
阿修羅の目が眩しいほどに輝くと、その阿修羅の目の先に、同じように巨大化した暗闇の神が出現した。
その暗闇の神は黒い煙の固まり、悪思、悪語、悪行の化身のためか、耐え難い生臭み、悪臭を放っている。
「ふん!」
阿修羅は、胸の前で両手を合わせ、暗闇の神を見据えている。
その阿修羅に暗闇の神から声がかかった。
「おい、阿修羅!善の神やら天使やら、そんなもので、手下を倒したぐらいで図に乗るんじゃない!」
「それから小賢しくも結界だと?」
「そんなものなど、もともと、どうでもいい」
「人間の命など、虫けらだ」
「何より、ここで阿修羅を倒せば全てが成就する」
「アラム語の呪文など、それも不要だ、人間の世が滅びれば必要は無い、あれはドラキュラが欲しがっただけだ」
「さあ、人の善意を食い物にしている阿修羅よ、そのお前の寄りましの男の子は、お前の節操もない戦闘で、既に青息吐息だろう」
「どうして、あんなドラキュラやミノタウロス程度で、その力を使ってしまうんだ」
「そんなのは八部衆やら、菩薩やら天使やら天神に任せればいい、お前には戦略と言うものはないのか」
「そこが、お前の甘さだ。もうすでに阿修羅を倒すのなど、赤子の手を捻るようだが」
暗闇の神は、大地の底から響くような大音声を発し、阿修羅に迫った。
「ふん、言いたいのはそれだけか」
阿修羅は、何も表情を変えない。
ただ、胸の前で両手を合わせ、眉をひそめ、少し哀し気な表情で暗闇の神を見つめている。
「む!どうした!あきらめたのか!」
「何故、剣をかまえない!」
「お前が決戦を望み、この地に導いたのではないか!」
「そこまで、この暗闇の神を侮辱するのならば!」
暗闇の神は、ついに黒々とした剣を抜きはらった。
「あの剣は全ての善なる意思を切り捨てる究極絶対の剣」
「ここで阿修羅はどうする・・・」
地蔵の表情がますます厳しくなった。
しかし、阿修羅は暗闇の神、地蔵の全く予想もしない動きを見せた。
「ふん、こんな聖剣を、お前のような下劣な神には使わない!」
阿修羅は、暗闇の神の大音声も凌駕するほどの大音声を発した。
そして、ミカエルがこしらえた剣を握りしめ、そして、何か不思議な呪文を唱え滅却してしまったのである。
「何?何故だ!」
「何故、その剣を!」
暗闇の神の声が再び響き渡ると同時だった。
阿修羅は真正面から、暗闇の神に組み付いた。
「う・・・何をする!」
「あーーー熱い!」
暗闇の神の声が響いたのは、そこまでだった。
阿修羅は暗闇の神を抱きかかえたまま、空中に飛んだ。
そして、そのまま、富士山の火口の中心深くに飛び込んでいく。
「これは、阿修羅だけの秘儀・・・古代最古ゾロアスター教に伝えられた聖別の秘儀、熔鉱の浄め・・・」
「つまり富士山の聖なるマグマの中に飛び込む、その中で悪だけが滅び、善だけが残る、太古からの究極の秘儀」
「しかし、こんなことをすれば、あの男の子の命が・・・」
地蔵は富士山の火口に飛び込んだ阿修羅と暗闇の神を見ながらつぶやいた。
闘いを終え、地上に降りてきた八部衆や千手観音、ミカエル、天神アポロたちの顔も、こわばっている。




