新聞記者VS首相 ついに決戦開始
詰めかけたマスコミ各社記者のほとんどが、この情勢では致し方ないと思うのか、素直にペンを走らせるけれど、中には納得できない記者もいるようだ。
T新聞記者と名乗り、ほとんど喧嘩腰に首相を追求し始めた。
「首相、これはあくまでも現政権が、テロ組織にあまりにも敵対的であったために発生した人災と思われます」
「大風雪や地震はともかく、少しでも日本国内の被害を軽減するためには、現政権が総辞職、首相が国際テロ集団の元に出向いて直接謝罪、あるいは命を投げ出すぐらいの覚悟を示さないと、事は収まりません」
「そうしないと、日本国民全員が納得しません」
「どうですか!まずは、すぐに総辞職を行ってください、そうするべきです!」
居並ぶマスコミ各社の記者は、ほとんど呆れかえっていたけれど、当のT新聞記者は得意満面の様子。
そのT新聞記者の隣でA新聞記者も、同感のようで頷いている。
ずっと目を閉じて聞いていた首相は、質問に答えた。
「日本は自由主義、民主主義の国です」
「言論の自由は保障されています」
「私は、貴方の言ったような意見が、日本国民全ての考えとは思いません、むしろ客観的に見て少数派ではないでしょうか」
「私に課せられた職務、使命は、日本の国民・国土を守ることです」
「この寒い、危険な情勢の中、国会前や港湾、原子力発電所前で、政権打倒を目指して集会を開いている人たちもいます、しかし、私をはじめとして政府はその人たちも守りたい」
「そういうことを、出来る限り政策を決めて実行するのが首相と政府なんです」
首相は、諭すような口調で記者に語り続けた。
T新聞とA新聞の記者からは、何もその後は質問がなかった。
ただ、全く納得していない表情になっている。
それでも、官房長官が、その場を締め、緊急声明は終了となった。
「ふう・・・疲れた」華奈
「どうせ、また首相と政府の批判記事書くんだろうね」由香利
「このとんでもない時期に、内閣総辞職したら、ますます大混乱、それもわからないのかなあ」由紀
「まあ、全てが全て政府が正しくはないけど、今の時期にそれはよくない」ルシェール
「まあ、それでも、さすがに首相、大人だね、全ての国民を守りたいなんてさ」美紀
巫女たちが、様々感想を述べる中、春奈は光のことを、ずっと見続けていた。
ずっとソファに座り、新聞を読んでいた光の目が輝き、立ち上がった。
「来たようだな」
光は、一言だけつぶやき両腕を一旦真横に開き、そして胸の前で合わせた。
阿修羅の合掌のポーズとともに、阿修羅が出現した。
阿修羅は巫女全員に身体を向けた。
「とにかく、阿修羅を信じ、光君を信じることだ」
阿修羅が重々しく語った瞬間、その姿が消えた。
華奈が窓まで走り、空を見上げると、大きな鳥に阿修羅が乗り、空に舞い上がっている。
「あ、あれは鳥神のカルラ!」
由紀も華奈の隣に並び、叫んだ。
春奈、ルシェール、由香利もカルラとその上に乗る阿修羅を見ている。
「さあ、始まるよ、みんな、気合だよ!」
美紀が窓際に立つ巫女たちを呼び戻した。
途端に、鈴の音がリビング全体に鳴り響き、地蔵菩薩が出現した。
「はい、確かに今日は気合が大切です、奈良の巫女たちは春日大社の本殿に籠り、御祈祷を始めました」
地蔵菩薩は、いつもより厳しい顔をしている。
そして、再び錫杖の鈴を鳴らすと、左手の宝珠が眩い光を放った。
その宝珠の中に、巫女たち全員の姿が吸い込まれてしまった。
「ふん、どこまでも大甘の神だ、今度こそ滅ぼす」
「全ての光を消す、その光が無くなれば、静穏な世界となる」
「阿修羅、お前が創った世界は、あまりにも下劣、決まり事一つ守れない人間とやらがはびこっている」
「全ては、決まり事に沿い、平穏、静穏の中に成就されねばならない」
「それなのに何だ!阿修羅、お前が守る人間が、その下らぬ低レベルの科学技術とやらで、この世界をゴミや悪臭に満ちたものにした」
「もう、これは限界だ、阿修羅お前を滅ぼし、全てお前が創り出した生き物とやらを滅ぼすことにする」
遥かの海底から、そして大地の奥深い場所から、その恐ろしい言葉が響いて来る。
そして、その恐ろしい声は、富士山麓の草原に立つ阿修羅、八部衆の諸神、天使長ミカエル、観音菩薩、天神アポロに、少しずつ大きさを増し、響いて来る。
「ふん、相も変わらず、滅びしか考えぬ狭量な神だ」
阿修羅は苦々しく、響いて来る言葉を聞いている。
「彼の名前は、ゾロアスターの宗教ではアンラ・マンユ、他の呼び方ではアーリマンですかね」
阿修羅の隣に、地蔵が並び立った。
左手の宝珠の中には、巫女の衣装に身を包んだ春奈、華奈、美紀、由香利、由紀、ルシェールなどの姿が見えている。




