コタツが大人気 しかし明日の決戦が気になる
「ああ、ごめん、ちょっとだけ出すよ」
光は、華奈のお願いを素直に受けた。
そして、再びリモコンのボタンを押すと、中央の畳が開き、いきなり大きなコタツとソファセットが持ち上がった。
床に直に座るタイプのコタツではない、ソファ形式の高めのコタツになっている。
「え?マジ?こんな仕掛けまで?」由紀
「いやーーー面白いし、暖かい」由香利
「ソファタイプの方が楽だなあ」春奈
「そうだね、立ったり座ったりが楽だねえ」ルシェール
様々、初入室の巫女たちが喜ぶ中、美紀は華奈に声をかけた。
「ほら、華奈、グズグズしない!」
「うん、持ってくる!」
さすがに親子、華奈は一気に一階と二階を往復、美紀が持ってきたミカンの大袋をコタツの上に置いている。
「へーーー、食べ物には早いねえ」
春奈は、華奈の動きに驚いてしまった。
「ああ、食べ物だけには早いよ、恋愛は下手でノロマ」
美紀は、ニコニコ顔のまま、既にミカンを食べ始めている。
華奈は少々ムクレルけれど、ミカンは美味しいらしい。
「ねえ、美紀さん、すごく大きくて甘いミカンだね」由香利
「どこのミカン?」由紀
「ああ、静岡だよ、富士山がきれいに見えるところ」美紀
「じゃあ、明日決戦が終わったら、買って帰ろうよ」ルシェール
「そうだねえ・・・でも、大丈夫かなあ」
春奈は、和室の仕掛けに対する驚きから、ようやく平静に戻った。
と同時に、明日の決戦に対する不安が大きくなっている。
夕食は人数も多いため、鍋料理、それも牡蠣の土手鍋となった。
全員が、ふうふうしながら、牡蠣を食べている。
「名古屋名物なんだけど、八丁味噌も良い御味だね」美紀
「牡蠣の甘味も、なかなか、力がつく感じ」由香利
「身体も温まるね、泊まってよかった」由紀
「出ようにも出られないさ、あちこち道路封鎖だもの、警備の人も大変さ」春奈
「本当に寒空の中ですよね、その人の御家族も心配しているでしょうね」ルシェール
美味しい牡蠣の土手鍋を食べながらも、どうにも不安が募る巫女たちである。
食事が終わると、全員が二階和室のソファこたつに入ってしまった。
「だって、暖かいしさ、気に入った」華奈
「どうして、今まで使わなかったの?もったいない」由香利
「やはり日本人は和室、たたみ、こたつがいいなあ」由紀
「そんなこと、フランス人でも同じ、足が温かいって疲れがとれる」ルシェール
光も満更ではないらしい。
ニコニコとして聞きながら、いろいろ考えているようだ。
「そうだねえ、ここで寒い時とかパーティーも出来るね」
「小さめのエレベーターがあると、料理も運びやすいかなあ」
とんでもなく贅沢なことまで、言い出している。
「全く、光君、お父さんに言ったら、すぐ設計しちゃうよ、そういうの大好きだから」
美紀も、史の工作好きを知り抜いているのか、苦笑している。
ただ、どうにも、春奈の顔が浮かない。
とにかく明日のことが、不安でならない。
春奈は、黙っていられなかった。
光の顔を真顔で正面から見つめた。
「ねえ、光君、明日はどうなるの?」
「政府には、いろいろ対策を話して来たらしいけれど、私たちは何をしたらいいの?」
「本当に不安でしようがないの、みんなそうだよ」
春奈の不安な想いは、巫女たち全員が同じだった。
全員が光の顔を正面から見つめた。
「うん、心配をかけて、ごめんなさい」
光は、少し頭を下げた。
そして、その目を輝かせながら、話し出した。
「明日は、カルラが大きな鳥の姿になり、阿修羅を迎えに来る」
「巫女たちは、お地蔵様の加護、結界に包まれ、阿修羅と同じ場所、つまり富士山麓に運ばれる」
「既に、富士山麓には、阿修羅を除く八部衆全員が、戦闘態勢にある」
「ミカエル、観音様、アポロも同じ地で、同様に戦闘態勢になっている」
「それから、クリスマスの時と同様、人間界には迷惑の発生しないように、幾重にも頑丈な結界を張り終えてある」
「この、阿修羅が倒れない限り、その結界は破られない」
光の口調は、最初から阿修羅だった。
「そこで、私たちの役目は・・・」
美紀の言葉も、本当に慎重になる。
他の巫女たちも、姿勢を正している。
「うん・・・」
「阿修羅としてのお願いは」
阿修羅の声が、重くなった。
「とにかく、光君を笑顔で見守ること、哀しい顔で見ないように、どんなことがあっても、光君を信じ抜くことだ」
阿修羅の声は、そこで消えた。
そして消えた途端、光はソファによりかかり寝息を立てている。




