楓の「お叱りの声」が大音量で官邸に響き渡る
天使長ミカエルの言葉を、光はかろうじて頷いている。
しかし、本当に身体が揺れている。
見かねた観音様が光について説明をした。
「この光君、芯は強いはずなのですが、体力が本当にありません」
「その光君が、今のように阿修羅を出現させると、全精力のうち、九割は消費したはずです」
「とにかく、今は本当に眠いはず、そこだけは大目に見てあげてください」
観音様の言葉が終わるか終らないうちに、本当に光は眠ってしまった。
観音様は、天使長ミカエルから、素早く光の身体を奪い、その膝の上に眠らせている。
「それから、観音様」
首相に続いて官房長官が観音様に声をかけた。
「光君のお母様の最後の日の、例の暴走トラックの運転手と運送会社が判明しました」
「光君が、その運転手と運送会社に対して、どういう反応をするか不安ですが」
官房長官の顔は、すこぶる緊張している。
「それは・・・この光君には・・・」
天使長ミカエルも観音様も、少し考えている。
ようやく観音様が官房長官に答えた。
「全ては、決戦後に」
特別対策会議がそれで終了した。
光は、まだ観音様の膝で眠ったままの状態。
しかし、その時点で光のスマホが鳴った。
ボンヤリと光がスマホを取ると、大音量の楓の「お叱りの声」が特別対策室に響き渡った。
「いったい、どうしてどこでも居眠りするの!」
「そんなんだから、クロワッサンも私に食べられちゃうの!」
「それから、さっさとお嫁さん決めちゃいなさい!」
「私はいとこだから、お嫁さんになってあげない!」
「ああ、もっと文句言いたいけど、お煎餅美味しいから、ここまでにしてあげる」
楓のお叱りの声は、本当に凄まじかった。
しかし、そのために、本来は、超緊張の特別対策室も、楓のお叱りの言葉で完全にリラックスモードとなった。
首相から最後にシメの挨拶が行われた。
「我々も、楓ちゃんに叱られないように、しっかりと対策を行いましょう、私と官房長官は決戦後に楓ちゃんにお煎餅を送ります」
首相の挨拶で、全員が笑っている。
首相以下、全ての特別対策室のメンバーの見送りを受けて、光とソフィーは再び政府の車で帰宅することになった。
「はい、光君、お疲れさま」
ソフィーは、何のタメライもなく、光の頭をなでている。
もちろん、再び光の膝枕になりたいという、下心からである。
「うーん・・・途中で楓ちゃんの声が聞こえたね、お煎餅がどうとか言っていたなあ」
「首相とか偉い人がたくさんいて、でも・・・」
光は、そこまで話して、膝枕をする気はないらしい。
しきりにスマホを見ている。
「うん、さっそく戒厳令というか、不要不急の外出を避ける旨の、政府通達だね」
ソフィーも同じように、スマホを見ている。
ただ、光の顔が浮かない。
ソフィーもそれは気になった。
「ねえ、まだ対策足りないの?」
取りあえず光でも阿修羅でも、どっちでもいいと思って聞いてみた。
ただ、光からは、本当に拍子抜けする答えが帰って来た。
「今日ね、学園で練習するって約束していたんだけどさ、出来ないよね、これじゃあ・・・」
「まあ、寒いからしょうがないなあ」
そんなことをブツブツ言いながら、おそらく練習相手に中止メールを打っている。
「そういう細かいところで、律儀だなあ」
「できれば、その律義さを、私だけに欲しいなあ」
「うーん、政府専用車じゃなかったら、このままデートしちゃうんだけどなあ、でも戒厳令か・・・」
ソフィーがそんな、他の巫女には聞かせられないことを考えていると、光の家に着いてしまった。
「ただいま」
光とソフィーが家に入ると、巫女全員が飛び出して来た。
「どう?光君、粗相しなかった?」春奈
「よだれの跡ない?」由紀
「少し時間かかりすぎ!本当はソフィーと何かあったの?」ルシェール
「あーーー光君、頬っぺたから、ジャスミンの香りがする!どうしたの?」由香利
華奈は、由香利の、その言葉でいきなり光の頬に鼻をつけて匂いを嗅ぎ、次にソフィーの匂いを嗅いでいる。
そして、光にすがって、そのまま怒り出した。
「もーーーー!どうして、子供の頃から成長がないの!」
「どうして、ソフィーのお膝がそんなに好きなの!」
「私の方が、美脚だよ!一番若いしさあ!」
あまりの暴言で、華奈は全員にお尻を叩かれている。




