やはり光は無粋だった・・・官邸に到着
「ふう・・・いきなり変化して御力使うし」
ソフィーは光の腕を組んでしまった。
そして、ソフィーは本当にうれしくなった。
「やはり知性と慈愛の神だなあ、弱い者には本当に優しい」
既に車内の温かさと、突然力を使った疲れのためか、ボンヤリとしている光を眺めている。
「でもなあ、やはり体力不足だなあ、身体が揺れて目もトロンとしている」
「うん、このトロン顔は幼稚園の時の光君と同じ顔だ」
「今も可愛いけれど、あの時も可愛かったなあ・・・」
「頭をずーっとなでていたら、そのまま、私の膝の上で寝ちゃったこともあるな」
「それを見て、ルシェールと楓ちゃんが本当に怒ってさ」
「ルシェールは光君の頬っぺたを、引っぱたくしさ、楓ちゃんはお尻蹴飛ばすしさ」
「あの時、華奈ちゃんは、そのまま、光君にしがみついて大泣きだった」
「その華奈ちゃんを、美紀さんが引きはがして、お尻叩いたんだ、それでまた、華奈ちゃんが大泣きさ、あれも可愛かった」
ソフィーは、光の幼稚園時代のいろんなことを思い出しながら、途中で光の頭をなで始めた。
「でも、あれ?本当に寝ちゃうのかな、身体がもたれかかって来たよ」
ソフィーは腕を組みづらくなった。
腕を離して、光を抱きかかえている。
「ふふっ、これは役得だ、絶対あの巫女連中には内緒だ」
ソフィーの含み笑いは当然、光はとうとうソフィーの膝に頭を乗せて眠ってしまったのである。
「もう、全く・・・でも可愛いからいいや、光君なら許す、こっちからお願いしたいぐらいさ」
ソフィーは官邸の入り口で、車が停まるまで、光の頭をなで続けていた。
「着いたよ、光君」
ソフィーは、膝の上で寝息を立てる光に声をかけた。
本音としては、「ずっとこのままでも」と思うが、さすが日本の中枢、首相官邸前ではそんなことは出来ない。
光もぼんやりと目を開け、ソフィーの膝の上から身体を起こした。
「あ、ごめんなさい、寝ちゃった」
光は本当に恥ずかしそうな顔をする。
「いやいや、残念ながら着いちゃった」
ソフィーは思わず本音を言ってしまった。
いつも冷静なソフィーにしては、顔を少し赤らめている。
「ソフィーの心臓の音も聞こえたし、今日はジャスミン系?」
光は、車を降りながらソフィーに突然、聞いて来た。
「え?寝ながら、そんな心臓の音とか、香水とか?」
ソフィーは、真っ赤になってしまった。
そこまで密着していたのかと思うと、うれしくて脚も震えて来る。
「うん、ソフィーのお腹の動きとかさ」
光は、官邸の前に立った。
「ねえ、恥ずかしいよ、こんなところでさ」
ソフィーは官邸の前にして、何ら緊張感のない光が不思議だった。
しかし、次の光の言葉でソフィーの緊張感も消し飛ぶことになった。
「時々、ソフィーのおなか鳴っていたよ、何も食べて来なかったの?」
ソフィーは、歩きながら光のお尻を思いっきりつねった。
そうでもしないと、気持ちが収まらない。
「もう、全く、ちょっとホンワカしていい気持だったけど、本当に無粋な光君だ、絶対そういう面の教育は、私が徹底指導する、これも、あの巫女連中には絶対内緒だ」
何をもって「そういう面の指導」なのか、それはともかく、いつまでも寒い官邸の前に光を立たせておくわけにはいかない。
ソフィーは光と官邸の警備員に頭を下げ、ようやく官邸に入ったのである。
官邸に入ると、官房長官が直接出迎えとして立っている。
光とソフィーに深々と頭を下げ、
「本当に突然で申し訳ありません、これから特別対策室にご案内します」
慎重な物言いである。
「わかりました、それでは早速」
光が頷くと、官邸の地下にある特別対策室に導かれた。
「お着きです」
官房長官が特別対策室の扉を開けると、首相以下全閣僚、陸海空の自衛官のトップ、警察のトップもいるらしい、全員が深刻な顔をして座っている。
「こちらへ」
官房長官の再びの案内で、光とソフィーは首相正面の席に座った。
座席そのものも、光とソフィーを待っていたのか、二人分の座席だけが空いているだけだった。




