阿修羅に猛抗議する春奈
「・・・ふう・・・」
春奈は緊急テロップを見終わり、ため息をついた。
そして光の顔を見た。
「もしかして、光君、わかっていたの?」
取りあえず、「光君」と呼んでみた。
おそらく応えるのは阿修羅と思った。
そうして、しばらく光を見続けた。
「うん・・・ついにだな」
少しずつ光の目が輝いてきた。
語調も変化している。
光は目を輝かせながら、春奈を見た。
「春奈さん」
光の声は明らかに阿修羅の声に変化した。
「はい・・・」
春奈は、その声を聞いて姿勢を正した。
その春奈を見て、光は両腕を一旦横に開き、胸の前で合わせた。
阿修羅の合掌のポーズである。
と同時に阿修羅が出現となった。
「これから、あの悪辣な神は、まず、この日本と阿修羅の破壊のために出現する」
阿修羅の顔は非常に厳しい。
その厳しい顔に春奈も身構えている。
「今の光君の状態では、おそらく、今回の闘いは身体が持たない」
「もう少し成長するかと思ったが、なかなか厳しいものだった」
「春奈さんをはじめとした巫女たちの協力を得たにしても、闘いが終わった時点で、この子の命は最悪そこまでか、命は残るけれど、かなりの障害が残る」
「そこで・・・」
阿修羅がそこまで言いかけた時である。
春奈は、いきなり立ち上がった。
そして阿修羅を真正面から見つめている。
「そんな、光君が死んじゃうんだったら、私も一緒に死にます!」
「それは、他の巫女だって、みんなそうします!」
「光君がいない世界なんて、生きていても意味ないもの!」
「いったい、何ですか!」
「光君が弱々しいのは、光君にも非があるけれど、そんな光君に乗り移ったんでしょ?それも迷惑をかけないって言って!あれは嘘だったの!」
「いったい、光君が何の悪い事をしたって言うの!」
「ひ弱だけど、懸命にやって来ているじゃない!光君って、ナマケモノだけど善意の固まりみたいな子だよ」
「阿修羅だったら、悪を滅ぼすだけじゃなくって、乗り移った光君も護ってよ!」
春奈は、涙で顔をグシャグシャにしながら、阿修羅に迫った。
阿修羅は少し驚いた顔で春奈を見ている。
そして、しばらくして、少し笑った。
「わかった、春奈さん、心配をかけてごめんなさい」
阿修羅は、驚いたことに春奈にキチンと謝ったのである。
それでキョトンとしてしまった春奈に、阿修羅がもう一言付け加えた。
「春奈さんに怒られたのは、千年ぶりだ」
「光君は、人の心を引き付ける力が本当に強い」
「いささか危険もあるが、まだまだ光君の中にいるとしよう、この子は長生きさせたくなった」
その言葉で、春奈は、目がくらみ腰を抜かしてしまった。
国際テロ集団の脅迫を受けて世界中の国が混乱、緊迫の度合いを含め、国連の安全保障理事会でも、深刻な協議が続いている。
また、日本国内においては、全ての主要な港湾及び原子力発電所は当然ながら火力発電所においても警察と自衛隊の連携で即座に厳重な警備体制が取られている。
また、各国の首都を攻撃する旨の脅迫により、東京都内、特に国会と霞が関周辺や繁華街は警察官があちこちに立ち、警備を終日行っている。
国会においても、議論は白熱している。
「何としてもテロリストの要求を受け入れるべきではない」
「多国籍軍を国連軍に変更して、即座にテロ集団の拠点を攻撃するべきだ」
「東京だけではない、全ての大都市を警備強化するべきだ」
概ね、各党は同じような見解を取るけれど、やはり違う考えを持つ党もある。
かつて政権を担った野党議員たちは、政権に対する批判を強めている。
「現政権が、テロ集団の動向や考えに、あまりにも無神経、敵対的であったがため、このような緊迫した事態を招いた、政権は即座に総辞職し、国民の意思を反映させるために総選挙を実施するべきだ」
「発生も未確定なテロに、テロ警備と称して、警察官や自衛官が市中に立ち過ぎている、これは国民の自由、私権の明らかな制限であり、断じて容認出来ない」
「いかなる理由があろうとも、我が国は国際紛争の解決手段として、憲法において武力を放棄したのだから、港湾警備で自衛隊を出動させるべきではない、自衛隊を即時に撤退させなければ、国会前や各所で更なる反対闘争を行う」
国内のマスコミ各社の一面も、ほぼ同様に国際テロリスト集団の動向と対策がトップになっているけれど、各社の論調は国会とほぼ同じ、ただしA新聞社は野党議員の主張と、ほぼ同じ論説を掲載している。




