異常気象発生 国際テロ機関の突然の警告
「私も光君の力の発揮の仕方が変化したように感じています」
春奈は、清水の交通事故の件から始まって光が、阿修羅の「闘いの力」だけではない、何かが変わったような気がしている。
圭子も春奈の分析がわかっているらしい。
「うん、阿修羅は闘いの神であると同時に、知性の神、慈愛の神だよ」
「悪しき者には最高に強く、弱き者を救う神さ」
「だんだんと、真正面の顔になって来ているはず」
圭子は、ここで言葉が落ち着いた。
春奈は圭子の言う「真正面の顔」は、興福寺国宝館の阿修羅像の前面の顔だと理解した。
「わかりました。私も楽しみです」
春奈は何より、「光に一番信頼されている」という圭子の言葉がうれしかった。
うれしさついでに、春奈の母、美智子に連絡をしようと思ったが、しなかった。
「また、あの意地悪母さんのことだ、どうしてケーキくらい一人で作れないのとか、絶対に言ってくる、お花見の時も、母さんがよそ見している間にケーキを食べちゃおう」
春奈は、そう思い、その夜はすんなりと眠りについた。
寒さの厳しい二月も終わり、三月に入ったというのに、寒気は上空を覆ったままである。
各テレビ局の気象ニュースも二月中旬から、一様に、異常気象と言い始めている。
「理由は不明ですが、分厚い寒気が日本上空に居座り、動く気配がありません」
「本当に珍しい事ですが、沖縄列島でも、ミゾレ、本来数十年に一度しか積雪がない静岡県の平野部においても、これからも大量の降雪が予想されます」
「それ以外の場所においては、猛吹雪も当分、頻繁に予想されます、お出かけの際はしっかりと防寒対策をお願いします」
異常を報道するのは、気象そのもの以外にもある。
「このところの、長く続く異常寒波で、灯油を求める客が、各ガソリンスタンドでは長い列をなしています」
「エアコンの暖房にかかる電力が今年度は、異常に増えているのか、各電力会社によりますと、発電所の電力供給能力も相当厳しくなっているようです」
「政府筋によりますと、原油の備蓄量も急激に減少、それを受けて政府は中東産油国に特使を派遣するそうです」
「また、政府も一定の電力使用制限を検討せざる負えないとの、見解を表明しております」
寒波、積雪に関係する事件も多発し始めている。
「一人暮らしの年金生活者が、灯油を買いに行けずに、凍死する事件が全国的に急増しています」
「全国の高速道路では、大雪や道路の凍結でスリップ、追突事故が多発、中にはガソリンや灯油を積んだトラックに追突が発生し、大炎上している場合もあります」
「灯油給油の際に、順番待ちでトラブルが発生、怪我はおろか殺人事件まで発生するものもあります」
「あまりの大雪で視界が悪くなった車両が、登校中の小学生の列に突っ込み、付き添いの保護者を含めて、かなりの死傷者が出る事故が、多発しています」
「全国の新幹線もあまりにも積雪が多いため、走行速度を抑えて運行しておりますが、それにより、運休も多くなっています」
異常気象は国会の場にも取り上げられた。
「政府は、速やかに中東に特使を派遣して原油の緊急輸入を行うべきだ」
「とにかく、交通網の安全性確保と、灯油、電力の安定供給が必要だ」
おおむね、与党の見解はこのようである。
しかし、かつて政権を担った野党の国会議員たちは、少し見解が異なっている。
「このような事態を招いたのは現政権の失態である」
「石油や原子力に頼らなくても済むような、電力供給システムを緊急に構築するべきだ」
「わが国には、素晴らしく高度な太陽光発電システムや風力発電の技術がある」
「公害をまき散らす石油発電や危険度の高い原子力発電は、可及的速やかに止め、クリーンな電力供給を行い、世界の模範となるべきだ」
そのような見解を表明し、寒空の中、連日国会前で大集会を行っている。。
ただ、あまりの寒さのためか、集会中に倒れる参加者も多く、参加者は大幅に減少傾向にある。
春奈と光は、テレビに映し出される国会前の集会を見ながら、話をしている。
「全く、どうしてこんなに寒いのに、デモするのかなあ・・・」春奈
「おそらくね、寒くてもデモを続行するという意思を示す、パフォーマンスだね」
光は呆れたような心配なような顔をして、テレビ画面を見ている。
「何十人って寒さで倒れたよね、それでもやるんだ」春奈
「まあ、おそらくテレビに映らないと、やらないと思うけどね」光
「だけどさ、今自然エネルギーって言ってもさ、太陽が出ないこの時に太陽光発電の設置システムを構築って、ずれ過ぎているよね」春奈
「普通の常識のある政治家なら、緊急事態に対処する方法を考えるんだけどね」光
「あの党の代表だよね、石油が止まっても、日本は備蓄があるから、緊急事態でもないって言った人」春奈
「でも、原油の輸送路で戦争が始まって、タンカーが通れなくなって、それが長期間になって原油の備蓄が無くなった時とか、どうするんだろうね、責任とれるのかな」
光が、そうつぶやいた瞬間である。
テレビ画面に緊急テロップが流れた。
「中東ホルムズ海峡において、大量の機雷が突然爆発、我が国向けのタンカーも大きな被害を受けた模様」
「中東の各産油国の製油所で、国際テロ集団による同時多発テロが発生、アメリカを中心とした多国籍軍も、全く事前にテロ計画を把握していなかったとの見解」
「国際テロ集団は、アメリカをはじめとして全世界の指導者に、三日以内に国際テロ集団への服従を要求、要求に従わない場合は、全世界の原子力発電所を含む全ての発電所、全ての首都で同時自爆テロを実行するとの声明を発表した」
「今回の製油所の同時多発テロで、各産油国の製油能力が大幅に低下、産油国全体会議は原油価格の大幅な高騰は避けられないとの発表を行った」




