内田先生とモーツァルトを連弾
「そうかあ、いろいろ大変だったねえ・・・」内田
フレンチトーストを食べながら内田と小沢は今日の一件を美紀から聞いている。
「まったく、とんでもないなあ、それだから日本の音楽家はお習い事から脱皮できない」
小沢も、気に入らないらしい。
「じゃあね、美穂ちゃん、私も時々、光君の家にピアノを弾きに来るから、その時に見てあげる、私が来られない時は、光君でいいよ」
内田は美穂を抱きかかえた。
とにかく、可愛らしくて仕方がないらしい。
ただ、内田先生のレッスンについて光は、把握していなかったようだ。
そもそも、今日、内田先生と小沢先生が家に来ることすら、わかっていない。
その光の脇腹を、華奈がつついた。
「光さん、スマホをピアノの上に置きっぱなし」
由香利は光の脚を蹴飛ばした。
「だから、小沢先生からメールあったから、お待ちしていますって返信しておいた」
由紀も呆れ顔になる。
「どうして、何かやると何か抜けるのかなあ、やはり、光君には、このしっかり者の由紀が必要だ」
ルシェールは、それでも温厚、やさしい娘である。
「でも、光君って、大きなバトルも凄いけど、こういう小さな女の子も助けるんだね、そういうところ、惚れ直した」
ルシェールは光を、更に熱い目で見つめている。
「それでさ、光君、久々にさ・・・」
内田が光の目を見た。
光も内田の目で意図がわかったらしい。
内田と光は、二人でピアノの前の椅子に座って弾き出したのである。
「ほお・・・モーツァルトの連弾かあ」
小沢がうれしそうな顔になった。
颯爽としたアップテンポのモーツァルトが、リビング全体に広がっている。
「うわーかっこいい!」華奈
「全てを吹き飛ばすモーツァルトだあ!」春奈
「あーーー私も弾いてみたい!」由香利
「凄い!二人とも暗譜なんだ!」由紀
「それにしても、内田先生と十分に張り合っているし、惚れ直しちゃう」
ルシェールのおっとり顔は、うっとり顔になった。
春奈は、本当に感激している。
「こんな、大先生のピアノと光君の演奏なんて、本当に目の前で聴けるなんて」
「今日は、本当に光君に感謝だよ、菜穂子さんにもお礼しなきゃ」
明美はピアノの上の菜穂子の写真に手を合わせている。
内田と光の連弾が終わり、明美と美穂は再び全員に頭を下げ、家に帰って行った。
「光君、本当に上手になったね、音にキレが出てきたかな」
内田も、安心したらしい。
光も、内田にほめられて喜んだ顔になっている。
「そうだねえ、どうしても内田先生がさ、光君と連弾をしたいって言い出してね」
小沢が今日の突然の訪問の理由を話し出した。
「それも銀座の楽器店の一件以来、ずーっと言っていてね、ピアノの指導も珍しく自分で指導したいってねえ」
小沢は苦笑している。
「そりゃ、そうさ、菜穂子さんとの約束だったもの、私に何かあったらピアノの指導をお願いしたいってさ、言われていたのさ」
内田は、ピアノの上の菜穂子の写真を見ている。
「内田先生は、ここの家には?」
春奈は、少し気になった。
未だに、光のことで知らないことが多い、どうしても知りたくなった。
「はい、何度も来たよ、小沢先生の演奏会を聞かなくても、この家には来たよ」
内田は小沢が苦笑する中、またしても春奈の見知らぬ事を言い出した。
「ああ、さっきのモーツァルトの連弾も、菜穂子さんと内田先生のお得意レパートリーさ、音大でも、この家でもよく聞いた」
小沢は懐かしそうな顔になった。
「その時、光さんは?」
華奈も、そういう時代の光が気になったらしい。
内田の顔を見た。
「うん・・・ねえ・・・光君、可愛かったんだけど、なかなか引っ込み思案でさ」
内田は光を見て笑っている。
「え?その時代もナマケモノ?」由紀
「ちょっと面倒だとしり込みする、悪い癖」由香利
「きっと年上コンプレックスだ」ソフィー
「それを優しくフォローするのが、このルシェールの役目なのさ」
ルシェールは、光の隣にピッタリと寄り添っている。
光を狙う巫女たちの想いはともかく、内田は話を続けた。
「本当に五年生ぐらいになって、やっと私と連弾するようになったの」
「感じたのは、さすがに菜穂子さんの子だなあって、テクニックはあの時から間違いはなかったよ、多少リズムが重かった」
「お母さんの前だったから、間違えないように正確に弾こうとしたのかな、キレは弱かった、でも今日は上手だった」
内田は、満足そうに光を見ている。




