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阿修羅様と光君  作者: 舞夢
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最後のケーキ再現計画

3月4日の卒業式と同時に行われる謝恩会の日が、近づいて来た。

謝恩会では、音楽部、軽音楽部、合唱部の、小編成の演奏会も行うことになっているため、各々練習に余念がない。

光もクラシック、ポップス、ロック、ジャズとあちこちのグループのピアニストとしてのメンバーであるため、放課後だけではなく、お昼休みも「引っ張りだこ」になっている。


「これだけたくさんだと、面倒だ」

顔半分がかくれる大きなマスクをしながら、それでも几帳面に練習に顔を出している。

ただ、華奈との練習だけは学校ではしない。

華奈は、毎日光の家に寄り、練習をして帰ることが日課となっている。


「それでも、上手になったなあ」

時折、心配で来るルシェールも驚いている。

音の響き、伸び、メロディの歌わせ方、心に響くものもある。


「昔より、姿勢もシャンとしているし、光君を見る目が熱いし、真剣だ」

「寒川様に加えて、伊勢大神様の御力が加わっている」

「本当にソフィーの言う通りだ、このルシェールも当選確実なんて、おっとりしている場合じゃない」

「何しろ、光君と二人だけの時間が絶対に必要だ」

「クリスマスの時の、愛の妙薬から、一歩も前進していない」

「それどころか、春奈さんは若返るし、由紀さん、由香利さんも攻勢をさらに強め、ソフィーも虎視眈々とだ、おまけに華奈ちゃんまで、まともになっている」

「ああ、まったく焦る・・・」

ルシェールは、必死に対策を考えるけれど、なかなか思いつかない。


光との練習が終わると、華奈は珈琲を飲み、キチンと笑顔で挨拶をして帰る。


「うーん、ここでも成長している」

超美少女ルシェールでさえ、ドキッとする可愛らしい笑顔をする。

ルシェールはまたしても焦ってしまう。


「ねえ、ルシェール、今日は泊まっていく?出来ればそうしてもらうと、助かるなあ」

焦りのルシェールに、春奈から突然、予想外の「ありがたい言葉」がかけられた。


「え?何かあるの?」

ルシェールが春奈の顔を見ると

「うん、今日は金曜日だしさ、明日の朝からちょっと作業したくて、手伝ってもらいたいの、その準備もあるし」

春奈は、わりと真顔になっている。


ルシェールは、そこでピンと来た。

「それって、華奈ちゃんには、苦手な分野?」

ルシェールが聞くと


「うん、悪いけれど、華奈ちゃんがいると、足手まとい」

春奈は、あっさりと認める。


「わかった、お料理系ね、何をつくるの?」

ルシェールが春奈に尋ねると


「作るのは、あれ・・・」

春奈の顔は、やさしい顔から、真顔になった。


ルシェールも「あれ」で、すぐわかった。

「あれかあ・・・そうなるとさ、今夜はレシピ探しだね」

つまり春奈の意図は、光と、その母菜穂子が最後の日に食べたケーキの再現作業をしたいということ。

そのためには、料理作り、特にお菓子作りに才があるルシェールの力が必要だったのである。


「うん、ベッド広いから二人余裕で眠れる」

春奈は、やさしい顔になった。


「そうだね、再現出来るかどうかも、難しい」

「でも作ってみて、食べさせてみて、どういう変化が光君に起きるのか」

「受け入れるのか、逆に拒絶反応を見せるかもしれない、リスクもあるけれど」

ルシェールは、不安も覚えた。


「でもね、乗り越えないと、だめなの」

「そのきっかけさ、そうしないと何も前に進まない」

「心を閉じ込めすぎているの、あの子は」

春奈の顔は、揺らぎもしない。

何としてでも、「最後のケーキ」を作ることに決めている。


「わかった、やりましょう」

ルシェールは、おっとり娘であるけれど、やると決めたことは徹底する。

光との「抜け駆け強行」は、本当に難しい。

しかし、「抜け駆け強行」が成就しても、光と結ばれるには、光の心の解放が必要だと思っている。

とにかく、光が、「母菜穂子の死と、自責の念」を乗り越えないと、春奈の言う通り、何も進まないと思っている。


結局、春奈とルシェールは「時間節約」のため、お風呂まで一緒に入り、夜遅くまで光の母菜穂子の本棚にあるレシピ集を見ることになった。


「うわーーーお菓子だけで、三冊」春奈

「三百種類だよ、しかも丁寧に書いてある」ルシェール

「パソコンも必要かなあ、プリンターでPDFにして取り込んで」春奈

「これは、探すのも大変だなあ」ルシェール

「ルシェール、ことは急ぐ、当分泊まって」春奈

「わあ、光君と一緒に当分住めるなんていいなあ」ルシェール

「う・・・勘違いはともかく、目的は一つ」

春奈は、少々のリスクを感じながらも、ルシェールとお菓子の再現作業に取り掛かることにした。

そして、その時点では、「足手まとい」の華奈の存在は、全く考慮にはない。

また、ソフィーの存在も、「まあ、分野違いだな」ということで、全く考慮にはない。

ましてや、由香利も由紀も「まさか、来ないでしょ」で、何も考えなかった。

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