銀座にて(2)異変発生
「へえ、たくさん楽器があるなあ」
華奈は四階の管弦楽器ルーム入ると目を丸くした。
華奈の言う通り、数多くの楽器が美術館のような湿度調整管理がなされたショーケースに展示されている。
様々な楽器関連グッズもあり、春奈たちも興味深そうに見入っている。
「あれ?」
由紀が突然、声をあげた。
「え?何?由紀さん?」
光は由紀の声の方を振り向いた。
そして途端にびっくりキョトン顔になった。
晃子が光たちの前に立っているのである。
しかも、腕組みをしている。
「ほらほら、全くメールに出ないナマケモノがいる」
誰とは言わないけれど、名前は聞かなくても光とわかる。
「ああ、お久しぶりです」
少々ウロタエ顔になった光は、一応頭を下げる。
「ああ、久しぶりは久しぶり、それはともかくさ、今日はみんなで銀ブラ?」
晃子は最初は光を責めていたけれど、責めきれなかった。
何しろ、他の巫女連中が厳しく晃子を睨んでいるのである。
「あ、はい、少しピアノグッズを買いたくて」
光は、素直に白状をする。
ただ、それ以上でもそれ以下でもない。
「で、ピアノは触って来たの?」
晃子は、次に意外なことを聞いた。
晃子は少し真顔になっている。
「いや、全く、まだ高校二年生だし、今日買うってこともないし」
「そんなプロのピアニストならいいけれど」
光は、ここでも素直に白状した。
しかし、その言葉を聞いた晃子の表情が変わった。
真顔で怒りだした。
「あのね、光君ね、音大に内定は決まっているけどさ、ピアニストになるんでしょ?」
「ピアノだって、そのピアノによって微妙に音が違うの」
「いつも、自宅のピアノばかりでしょ、あれは確かにいい音がするよ」
「でもね、せっかく、ここまで来たら、全部触って帰らないとダメ!」
「それだって、勉強なんだから!」
「どうして、こんなところで引っ込み思案しているの!」
晃子は真っ赤になって怒っている。
そして言葉を続けた。
「あの五階のピアノ売り場の女の子だってさ、光君のこと知っているよ」
「私もあの子と時々光君の話するしさ」
「あの子、夏のコンサートにも冬の大聖堂のコンサートにも来て、光君のファンだもの」
「だから、光君が急に銀座の楽器店に来て、すごくうれしかったんだけど、ピアノに何も触らないってことが、自分の対応が悪かったって、しょげていたよ」
矢継早の晃子の言葉に光は、すっかりタジタジとなった。
ようやく春奈が、フォローの言葉をかけた。
「ごめんね、光君って、何やらせても亀なの」
由紀と華奈は、少し離れて晃子の話を聞いている。
「ねえ、あそこまで怒るって変だよね」由紀
「結局、自分より若い女の子が光さんの周りを固めているのが気に入らないんだ」華奈
など、つぶやいているけれど
「じゃあ、少し触って帰るかなあ」
光は、そうしないと場が収まらないと思った。
他の巫女たちも、ほとんどそう考えたらしい。
しかし、ソフィーとルシェールは、表情が変わって来ている。
ソフィーとルシェールはついに窓の前に立った。
「ねえ?また五階に戻るけれど?」
春奈が声をかけるけれど、二人はは黙っているし、動かない。
「ねえ、何か?」
春奈が再び声をかけると
「うん、ものすごく邪悪な霊を感じる」
由香利も異変を感じたらしい。
「あれ・・・変・・・窓の外が真っ暗」
由紀の身体も震え出した。
「あーーー本当だ、怖いよ、光さん!」
華奈は、いきなり光にしがみついた。
光もソフィーと並んで窓の前に立った。
そして、光の目が輝き出している。




