銀座にて(1)
「そうだねえ、治安の面でもこれだけ外国人が増えると、不安要素も膨らむんだけど」
ソフィーは、公安調査官という役目柄か、群衆を注意深く見ている。
「でも、あれ?由香利さん?」
由紀が突然、手を振った。
確かに由香利が歩いて来るようだ。
由香利も光たち一行がわかったのか、手を振っている。
「何だ、来るんだったら迎えにいったのに」
ソフィーもうれしそうな顔をする。
ただ、由香利は手をヒラヒラとさせて、ソフィーの言葉を流した。
「そんな、お迎えいらないって、日本橋人形町に住んでいるんだから」
由香利は笑っている。
「へえ、由香利さん人形町だったんだ・・・本当に近いねえ、人形町も懐かしいなあ・・・」
光は、人形町に何か思い出があるようだ。
その光の言葉に、由香利が反応した。
「え?光君、人形町に来たことあるの?」由香利
「うん、古い洋食屋さんにね、父さんと母さんと来たよ、ビーフシチューが本当に美味しかった」
光は、やさしい顔になった。
「うん、わかるよその店、美味しい店だね、銀座で食べると、この人数じゃ大変、知りあいの店だから予約しようか?」
光に声をかけながら、由香利はさすがに頭が切れる。
春奈、ソフィー、由紀、ルシェール、華奈の顔を見る。
「うん、老舗の芳味亭でしょ、洋食の超名店だよ、一度行きたかった」
ソフィーもすぐに店がわかったらしい。
「へえ、洋食かあ・・・確かにこの人出の多い銀座だとゆっくり出来ないね、美味しいんだったらOK」春奈
「私も聞いたことあるなあ、横浜の名門ホテルで修行したとも」ルシェール
「突然、洋食が食べたくなったぞ、お肉で元気モリモリさ」華奈
「うーん、二人きりのチャンスが難しいなあ、でも、何とかなるさ」由紀
結局、巫女連中からは異論がなく、銀ブラ後は、洋食屋で食事をすることになった。
「さて、せっかく銀座なので、歩こう」
光は、四丁目交差点から歩き出した。
光の左隣には、いち早く由紀、少し遅れて右隣に由香利が並んだ。
「まず、七丁目?」
由紀は場所もわかっているようだ。
「うん、あそこでピアノとか楽器、出来れば楽譜を見たい」
光は、ここで、ようやく本来の目的を思い出した。
そして
「まあ、あまりそういうのに興味がない人は、銀ブラしていていいよ」
光は後ろを気に入らなそうな顔で歩く、春奈、ルシェール、華奈、ソフィーに、一応声をかける。
「あのね、全く自分の立場をわかっていない、光君は警護の対象なの!」ソフィー
「この雑踏の中で、自分の学園の学生を管理するのは教師の役目です」春奈
「私もたくさんのピアノを見たい、好きでついていくんです」ルシェール
「いくら下手って言ってもね、私もヴァイオリン奏者、音楽家のハシクレです」華奈
そう言って、まったく全員が、光と由紀から離れようとはしない。
そんな状態で、一行は銀座七丁目の楽器店に入った。
光と由紀が先頭で、楽器店に入ると、そのままエレベーターで五階のピアノがたくさん置いてあるフロアに入った。
「わあ、本当にたくさんだ」由紀
「ここはは子供の頃から来ているしね、ここにしかないプレミアムピアノや、今人気になっているハイブリッドピアノとか、いつも四十台ぐらいあるのかなあ」
「子供の頃は、母さんが防音室でピアノ弾いていたな」
光は、懐かしそうな顔になる。
光と由紀の周りで他の巫女連中もいろいろ、ピアノを眺めているけれど、やはり、それほど興味はないようだ。
「光さんがピアノを弾いてくれるっていうんだったら聞くけどさ」華奈
「そんな、どこの誰ともわからないような、あんな光君みたいな華奢な高校生なんか、触らせてもらえないさ、こんな高級ピアノ」春奈
「春奈さんも、顔が若くなっているし、もう少し大人を連れて来るべきだったねえ」
由香利
「でもなあ、聞きたい気持ちもあるね、残念だなあ」ソフィー
「私も出来るなら聞きたいなあ」ルシェール
巫女たちは、様々、ブツブツいっているけれど、光はピアノに触る気はないらしい。
こまごまとしたピアノグッズを買い求めている。
対応に当たる女性店員が、光の顔をじっと見ているけれど、光はまるで関心がない。
「じゃあ、弦楽器も見たいので、見たくない人はいいよ」
光には、巫女たちの「つまらなさそうな顔」は、わかっていたらしい。
一応、声をかける。
「光さんは、私がヴァイオリン奏者ということをわかっていない」華奈
「この、銀座の雑踏のなか、バラバラに行動したら危険なの」春奈
「本当に、何が起こるかわからないんだから」由香利
「それでも、何か・・・変」
突然、ルシェールの目が光った。
何か異変を感じたらしい。
ただ、ソフィーは何も言わなかった。
しきりに、窓の外を見つづけている。




