江ノ島にケンダッパ神出現
石井の身体からようやく逃れた斎藤が立ち上がった。
「光君、ありがとう、済まなかった」
後頭部から血を流しながら、斎藤は光に頭を下げた。
「いやいや、災難でしたね、早く治療を」
光は春奈に、目で合図をした。
春奈も頷いている。
ソフィーが入って来た。
ロープで石井を縛り上げた。
「あなたね、弁護士協会の親とか国会議員もA新聞とか、私には通用しないよ、これから徹底的に公安で調査するよ、覚悟して!」
久々にソフィーの厳しい表情と言葉だった。
校長がソフィーに頭を下げる中、石井は「連行」されていく。
既に学園内には警察車両も待機している。
光が斎藤に尋ねた。
「投げられなかったの?」
斎藤は首を横に振った。
「ああ、案外強い、投げられたかも知れないけど、教室壊れるしさ、光君が来てくれたから、投げるのを止めたのさ」
斎藤は、申し訳なさそうな顔を光に見せている。
光は斉藤と別れ、自分のクラスに入った。
クラスの全員が心配そうな顔をしている。
光が席に着くと、早速隣の由紀から話しかけられる。
「朝から、大変だったね、お疲れさま」
ただ、由紀の表情はクラスの他の学生に比べて落ち着いている。
「うん、斎藤さんのほうが、本当は強いよ、正面から向き合えばね」
「でも、たまには斎藤さんだって、油断することもあるのかな」
「本当は金剛力士の阿形さんに相手してもらってもよかったけれど、弱すぎるからさ」
光も落ち着いた顔をしている。
「でね、昨日なんだけどね、江の島にいたら変わった人が歩いているのが見えたんだけど」
由紀は話題を変えた。
不思議なことを言って光の顔を見た。
「え?変わった人って?どんな人?」
光は、ごく普通に聞き返した。
しかし、目が輝いている。
「うん、普通の高校生みたいなんだけど、私の目には姿が二重写しに見えるの」
由紀は、ますます不思議なことを言った。
「普通の高校生はともかく、もう一つの姿は?」
光は、由紀の目をまっすぐに見ている。
「やだ、照れちゃう!」
由紀は見つめられて顔を真っ赤にしながら、懸命に説明をする。
「えっとね、少し下ぶくれでね、昔の人の服っていうのかなあ、今の人が着ないような変な服、それでね頭にライオンの帽子をしていてさ」
「むむ・・・」
光の表情が変わった。
そして言葉を続けた。
「もしかして、目を閉じて歌を歌っていたとかさ、音楽が聞こえて来たとかさ」
光は由紀の目を見続けている。
「へえ・・・当たり!知っているの?その人?」
由紀は光の顔を不思議そうに見た。
「いや、知っているも何も・・・ケンさ、正式にはケンダッパだけどね」
「八部衆の一人、天界の神酒ソーマの番人で音楽が好きな神さ」
光は、うれしそうな顔になった。
「へえ・・・音楽の神かあ、それもいいなあ」
由紀もうれしそうな顔になった。
「ところで、どんな歌を歌っていたの?」
光は興味があるようだ。
「えーっとね、最初は、古い中東っぽい音楽だったんだけどさ、途中からサザンになった。ああ恋チュンも歌っていた。上手だったよ」由紀
「えーーーー?サザンはともかく、恋チュン?全くかなわないなあ」光
「かなわないって?」由紀
「とにかくさ、昔から流行りの音楽が大好きな神なんだ、きっと今頃は楽器屋さんとかぶらついているかも」光
光と由紀の会話は、授業開始前まで続いていた。
ただ、金剛力士の出現の時と比べると、光の表情はかなりうれしそうである。
休み時間になって、再び由紀から話しかけられた。
「ねえ、今度の週末開いている?光君」
由紀の顔が、また赤い。
「えーっと・・・寒いけど開いているよ」
寒いから外出はしたくないのが本音であるけれど、由紀の真っ赤な顔には正直に応えてしまう光である。
「わあ、よかった、じゃあ、デートしよう!」
由紀は、真っ赤な顔ながら、うれしそうな顔になった。
「え?デート?どこ?」
光もうれしそうな顔になっている。




