光VS総合格闘技
「由香利さん?いきなり?」
腕を強引に組まれ引きずられている光は顔が真っ赤になっている。
「ああ、とにかく急いで、バトルが始まりそうなの」
由香利の顔が蒼くなっている。
「バトルって三年生のクラス?」
光が由香利に聞くと
「うん、斎藤さんに突然絡んだ人がいるの、後ろから首を絞めている」
由香利は、驚くようなことを言ってきた。
「え?斎藤さんって強い人だよ、そんなこと出来る人がいるの?」
光は不思議だった。
いくら突然とはいえ、斎藤は全国大会二位の強い柔道家、将来のオリンピック候補。
そんな強い斎藤に後ろから組み付ける人がいるのだろうか、光は首を傾げた。
「うん、グレイシーなんとかを習っているらしい石井って学生、もともとは柔道部だったんだけど、一年生の時に斎藤君に思いっきり投げられて、柔道部を退部、その後グレイシーを習っているんだって」
「とにかく、後ろから斎藤君の頭をボコボコ殴っている」
「危なくて見ていられない」
由香利の顔は、蒼白になっている。
そんな状態の中、由香利と光は斎藤がいる教室に着いた。
教室の周りには、多くの学生が群がり、教室の中では斎藤がうつぶせになり石井が斎藤の首を絞めながら、その頭を殴りつけている。
「顧問の山下先生は?」
光は由香利に尋ねた。
光としては、まずは、柔道部顧問が事を収めるのが筋だと思った。
しかし、由香利は首を横に振る。
「うん、先生は出張中、だから斎藤君をいきなり襲ったのかもしれない」
その由香利の言葉の最中にも、石井は斎藤の頭を殴り続けている。
見守る学生の中から、悲鳴があがっている。
「しょうがないなあ・・・」
ついに光は斎藤と石井の前に立った。
その光を石井が見た。
「おお!来たか!光!」
「強い強いって言ってもな、柔道なんか、こんな程度だ」
「結局一番強いのは総合さ、全ての技術で相手を倒す」
「打撃専門、組み技専門なんて、総合から比べれば子供だましさ」
石井は、せせら笑いながら、斎藤の後頭部や耳を殴り続けている。
斎藤は既に出血してて、床に血が流れている。
「そもそも、トラブルの原因は何ですか?」
「石井さん、こんなことすれば受験どころか刑事事件ですよ、それわかっていますか?」
光は石井に問いただした。
既に廊下には春奈、華奈、公安調査官のソフィーが立っている。
「刑事事件?馬鹿言うんじゃない!」
「そんなことに出来るんだったら、どうぞやってみてくれ、あくまでも正当防衛だ」
石井は光の言葉をせせら笑い、斎藤を殴り続けている。
「あ、わかった、石井さんって」
廊下の学生たちが囁きはじめた。
「うん、親が弁護士協会の幹部なの、それと野党の政治家とかA新聞と親しいんだよね」
「それでかあ・・・」
「何でも出来るって思っているのかなあ、何でも言いくるめて無罪にできるって」
「そうだよね、ほんと彼って思い上がった言動が多いもの、それか・・・原因って」
光は廊下の学生たちの言葉など、何も聞かない。
再び石井に原因を尋ねた。
「とにかく、トラブルの原因を教えてください」
光の目が輝きだしている。
「ふん、仕方がない、ただ、俺は悪いことはしていないぞ」
「あくまでも正当防衛だ」
石井から信じられない言葉が飛び出した。
「この弱い斎藤がな、柔道雑誌を授業前に読んでいたんだ」
「だから、そんなダンス柔道なんか弱いって言ったのさ」
「そしたら、ものすごい目つきになって、俺を睨み付けて斎藤が立ち上がって、おれの前に立った」
「もう凶暴な目付きさ、それだから俺は身の危険を感じて、後ろに回って斎藤の首を絞めたのさ」
石井は、全く悪びれる様子はない。
「それで投げ飛ばされないように、後頭部や耳を殴るんですか」
光は再び石井に問いただした。
「ああ、当たり前だ、これは正当防衛だ、こいつが謝るまで殴るのさ」
石井は斎藤の後頭部を殴り続けている。
光は、その後何も話さなかった。
いきなり石井に近づき、石井の右手首を取った。
「うわ・・・」
「合気?」
石井は、床に転がされ腕を極められている。
ただ、手首を動かされただけなのに、完全に腹ばいになり、全く動くことが出来ない。




