楓の涙 由香利に引きずられる光
再び光の家は平凡、平穏な夜となった。
春奈と光は、二人ですき焼きを食べている。
「ねえ、真冬のすき焼きも美味しいね」
春奈が声をかけると
「そうだね、人数が多いとバトルもあるけど、春奈さんとだけもいいなあ」
光から、予想もしていない言葉が帰ってきた。
「へえ、どうして?」
春奈は光の言葉がうれしかった。
顔も赤くなっている。
「だって、春奈さんって、大人だしきれいだし、落ちつく」
光の顔も少し赤い。
「ありがとう、ねえ、お肉もっと食べて」
春奈は、うれしさが余って光の取り皿に大量のお肉を入れている。
「ところでさ、光君」
春奈には気になっていたことがあった。
「え?何?」
光は、久々のキョトン顔になる。
「今日の午前中は、楓ちゃんとデートだったの?」
春奈が率直に聞いている。
「うん、焼き立てのクロワッサン食べた」
光もあっさりと答えた。
「へえ・・・美味しかった?誘ってもらいたかったなあ」
春奈は、本音を言う。
「いやーーー、そう思ったんだけどね、楓ちゃんが絶対二人だけって言い張るしさ」
光は、少し申し訳無さそうな顔になる。
「そうかあ・・・、楓ちゃんもずっと奈良で寂しくて心配で仕方がないのかなあ」
春奈は楓の気持を察した。
「だから、東京の大学に合格したら一緒に住もうって言ったんだけどさ」光
「そしたら何だって?」春奈
「光君の相手が決まっていたら住めないとか、いろいろ変なことを言ってさ。全くわけわからない、楓ちゃんって、子供の頃から時々そうなる」
光は首を傾げた。
「へーーーしっかり者なのにね」
春奈は楓の意外な一面に少し驚く。
「うん、しっかりしているけど、突然怒るしさ、泣き出すと止まらないしさ」
光は、そこで黙ってしまった。
光との話の後、春奈は奈良の圭子に電話をした。
どうにも楓の泣き顔が気になったのである。
「ああ、楓ねえ・・・家に帰っても部屋にこもって泣きっぱなし」
「寂しいよって、ずーっとだよ」
「私ももらい泣きしちゃった」
圭子も泣き声だった。
そして一言付け加えた。
「菜穂子さんと光君の最後の日のことがわかってから、美智子さんもナタリーも私も楓も眠れない、おそらく奈津美さんもだよ」
翌月曜日となった。
いつもの通り、ソフィーの警護を受けて、光は春奈と華奈と一緒に登校になる。
ただ、いつもと違うのは光が大きなマスクをしていること、もともと顔が大きくない光は、大きなマスクをつけると顔半分が隠れてしまった。
「ぷっ!」春奈
「まるで子供顔!」ソフィー
「私もつけるかな、ペアルック!春奈さんとソフィーはお化粧取れても困るから残念」
久々に一言多い華奈はソフィーから大き目のマスクをもらい、光とペアルックにしてしまった。
ただ、その後、華奈は春奈とソフィーにお尻を引っぱたかれている。
校門の前に由香利が待っていた。
いつもにも増して、きれいに輝いている。
「光君、そして春奈さん、ソフィー、華奈ちゃん、土曜日はありがとう」
お礼の仕方も、気品にあふれている。
これには、春奈たち三人の巫女もうっとりとしてしまう。
しかし、「うっとり」はその瞬間だけであった。
由香利は、有無を言わせない速さで光の腕を組んでしまった。
そして、グイグイと光を校舎の中に引きずっていく。
「う・・・強引そのもの」春奈
「珍しいなあ、あそこまで」ソフィー
「うん、あの強引さは参考になる」華奈
由香利に光を奪われてしまったウカツさはともかく、三人とも特に気にしてはいないようだ。
「どうせ、何か頼み事でしょ」春奈
「私たちには言い難いことかな」ソフィー
「赤福を一緒に食べようぐらいかな」華奈
まさか、朝から赤福を食べるなど、普通はありえないけれど、三人とも思いつくことが無い。
ただ、多少は気になるのか、由香利と光の跡を追うことにした。




