光復活計画?
ようやく近鉄に乗り込めた光は、ずっとうつむいている。
それに対して、春奈たちは、いろいろ考えている。
「つまりね、楓ちゃん、寂しくて仕方がないのさ」春奈
「私たちは、会おうと思えば毎日会えるけどねえ・・・」ルシェール
「お花見って言っても、まだずっと先だよ、可哀そうな気もする」ソフィー
「一度、東京とか来てもらおうか?」華奈
「暖かいところがいいなあ、来てもらうにも」春奈
「となると、うーん・・・都内もまだ寒いよ」ソフィー
都内組の巫女たちは、様々、「楓のご機嫌取り」を考えていけれど、気になっていることがあった。
都内組の巫女たち全員に、楓から言われた言葉である。
「いい?春奈さんもそうだけどさ、光君のお嫁さんになりたいんだったら、もっと光君の内面に入り込まないと無理だよ」
「光君は、お母さんの亡くなった原因が自分にあるって、もう、ずーっと自分を責め続けて来たの、自分のミスでお母さんを殺してしまったとね」
「本当は違うんだけど、光君は、自分を責める人だから、乗り越えるのは難しい」
「ましてや、死んじゃったお母さんのことだし」
楓の言わんとすることは理解出来た。
母親の死を自分の責任と思う光の心の内部まで入り込む、あるいは心を開かせる、それが求められると言うのである。
「とにかく、思いっきり泣かせないとだめかなあ」春奈
「心の苦しさを全部吐き出させるの?」ルシェール
「光君の心の氷を溶かずのか・・・」ソフィー
「うーん・・・もしかすると・・・きっかけ程度だけど、リスクもあるなあ」
華奈は、何か思いついたらしい。
「え?華奈ちゃん、何?」
春奈は華奈の次の言葉を促した。
「うん、光さんと菜穂子叔母さんが食べていたケーキ、光さん本当に美味しいって食べていたよね」華奈
「ああ、レシピあるかなあ」ルシェール
「探してみようか?」ソフィー
「でも、同じように作れるかなあ」
春奈は腕を組む。
「光君に食べさせるにも、慎重さが必要だよ、下手に作って逆効果もあるかも」
ルシェールは少しためらっている。
「今でも、意識の中に残っているケーキだよね」
ソフィーも難しそうな顔になる。
「奈津美叔母さんなら、わかるかなあ・・・」
華奈は、光の叔母奈津美を思い出す。
巫女たちは「思い出のケーキ作り」を真面目に話し合っていた。
都内に戻り、ルシェールはソフィーが送り、その後華奈を送り届けた光と春奈が自宅に戻ると、家の前に立っている金剛力士の阿形から声をかけられた。
何か頼み事があるらしい。
「何だい?奈良に帰りたいのかい?」
光は阿修羅の口調に変化した。
阿形はその言葉を軽く受け流す。
「全く性格が悪い、そんな簡単に帰るわけないだろう」
「阿修羅はともかく、光君が心配だ、光君がしっかりするまで護る」
阿形は胸を張った。
「ところで何だい?頼み事ってさ、とにかく寒いから中に入りなよ、早くしないと光君、風邪ひいてまた、寝込むよ」
光は阿修羅に変化した。
そして、金剛力士を家に招き入れた。
「それでさ、頼みっていうのはね」
リビングのソファに座った阿形は、春奈が淹れた紅茶を飲んでいる。
「うん、なかなか美味しそうに飲むなあ」
そう言いながら阿修羅も美味しそうに紅茶を飲んでいる。
「あのさ、この時代の相撲を生で見たい、できれば立ち会ってみたいんだ」
阿形の眼が輝いている。
「ああ、そうか・・・でもな、相撲って言ってもね、いろいろだよ」
「光君が立ち会ったボクシングとか柔道とかレスリングも、昔で言えば相撲さ」
阿修羅は少し考えているようだ。
「うん、いろいろあるのは聞いている」
「できれば全部見たいなあ」
阿形は阿修羅の顔を見た。
「・・・となると、全部お願い出来るのは・・・坂口さんかなあ」
阿修羅は坂口の顔を思い浮かべた。
坂口なら格闘技界全般に顔が広いし、頼みやすい。
「うん、頼むよ、任せた、春奈さん、美味しい紅茶ありがとう」
阿形は阿修羅の言葉に満足したらしい。
春奈にもお礼を言い、再び警護のため、外に出た。
阿修羅の姿も消え、光に戻っている。




