サカラ神登場、圭子の不安
巫女たちが、そんな「たわいもないバトル」を繰り広げる中、光は自分に近づいてくる一人の少年を見ていた。
「あれ?」
光が首を傾げた。
そして少し笑いだした。
「あれ?って何だい」
近づいて来た少年も笑った。
見る限り、普通のダウンジャケット、セーター、ジーンズ、スニーカーで、普通の可愛らしい少年に見える。
途端に光の目が輝いた。
「何だ、真っ直ぐに来るから誰かと思ったらサッくんか」
光の口から聞きなれない名前が飛び出した。
その様子に巫女全員が身構えた。
「まったくねえ、こういう風に口が悪い」
光から、サッくんと言われた少年は肩をすくめた。
ソフィーが「サッくん」に近づいた。
「もしかして、サッくんって、サカラ様?」
「サッくん」は頷き、現代の少年風スタイルから、いきなり古代の神像に変化した。
興福寺国宝館の像と同じ、頭上に蛇の頭が立った龍神「サカラ」になったのである。
サカラは頷いた。
「うん、観音様の巫女、久しぶりだね、サカラは阿修羅の闘いに参加する」
「サカラはサカラなりの闘い方で、悪なる火、闇の火を清浄水で消して見せる」
サカラは、ソフィーが観音様の力を帯びていることがわかっているらしい。
ソフィーを見て、微笑んだ。
「うん、ありがとう、総力戦になる、助かる」
光もいつのまにか、阿修羅に変化している。
サカラがそれに応えた。
「一度、光君の住む東京で出たけれど、なかなか、面白い」
「善なる火と悪なる火が混在化している」
「それでこそ、腕の振るいようがある」
サカラはうれしそうな顔になった。
「じゃあ、そろそろ光君に戻るよ、あまり長く変化していると、光君は疲れて倒れるからさ」
阿修羅は、そう言って肩をすくめた・
途端に、阿修羅の姿が消え、ぼんやりとした光に戻っている。
巫女たちもサカラも頷いている。
「まあ、光君も、夏よりは強くなったけれど、相変わらず華奢だなあ」サカラ
「はい、なんとか食べさせてはいるんですが」春奈
「元来、ナマケモノで鈍感で・・・」楓
「それが、たまらなく可愛いんだけど」ルシェール
「とにかく、私たち巫女で、面倒は見ますから」華奈
「伊勢の巫女も参戦するそうなのですが、その前にもう少し体力ですね」ソフィー
「うん、阿修羅はともかく、光君は、心に深い傷がある、それを自ら克服しなければならない」
サカラも、光の心の傷を見抜いているらしい。
その後、サカラは他の八部衆との「打ち合わせ」ということで、光たち一行に別れを告げた。
春奈は、母美智子の家、華奈は奈良の祖父母の家、ルシェールとソフィーはルシェールの母、ナタリーの家に泊まるため、途中で別れた。
「まあ、おかえり!光君!」
父の実家でもある圭子叔母さんの家に着くと、圭子は大喜びで出迎えた。
「ねえ、お正月も楽しかったし、また来年も行こうね」
「ああ、それから春奈ちゃんにもソフィーにもルシェールにもいいことがあったんだね、さすが寒川様だよ、その上、華奈ちゃんは伊勢の大神様の元に里帰りもしたんだ」
圭子は、「見通しの巫女」、いろいろ見抜いている。
ただ、大喜びをする圭子の隣で、楓は不機嫌な顔になっている。
「ふんだ!私だけ何もないし、そういう差別待遇がストレスを生み、食欲を増すの!結局悪いのは全て光君だ!阿修羅なんか入るからいろんなことが起こる」
「弱々しいだけの光君でよかった、あれはあれで可愛いし」
楓は様々、支離滅裂のことを考えながら、どうにもお煎餅に伸びる手が止まらない。
それもあるのか、楓の体型は、また巨大化している。
「ところでね、光君」
圭子は光を正面から見つめた。
圭子の目の色が濃くなっている。
これには、光も姿勢を正した。
「昨晩ね、菜穂子さんが、私の夢に出て来たの」
圭子は、真顔になった。
「はい・・・」
光も真顔になった。
楓も、お煎餅に伸びる手を止めている。
「とにかく、すごく心配しているよ」圭子
「うん、感じるときある」光
「今度の戦いはかなり強烈、生半可な体力だと持たない」圭子
「そうだろうね・・・」光
「ミカエルの剣を振るうにもね、今の状態では無理だよ」
「阿修羅は剣を振るって勝つよ、でもクリスマスの時と同じ、光君が倒れる」
「当然、阿修羅は光君に戻れない」
「その瞬間から、全世界は暗闇に閉ざされる」
圭子は言葉を続けた。
「それを心配して、八部衆や金剛力士、天使長ミカエル、天神アポロ、寒川様や伊勢の大神様まで、ご参戦。それもこれも、どうしても光君の血統を絶やしたくないから、光君の負担を少しでも減らしたいがため」
圭子の両目に涙がにじんだ。
「うーん・・・」
圭子の言葉で光は考え込んでしまった。
「血統を絶やすとか絶やさないとか、高校二年生で言われてもねえ・・・」
「体調管理はともかく、血統は・・・」
光は首を傾げている。




