表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
阿修羅様と光君  作者: 舞夢
344/419

光の心の傷(5)心を閉ざした原因

ソフィーは少し付け加えた。

「その後なんだけどね、その暴走トラックが、光君のお母さんに注意されて腹を立てていたのかな、ますます乱暴な運転でね、早く来るはずの救急車と接触事故しているの」

「何しろ暴走トラックの中で、K二郎のド演歌ガンガンに鳴らしてサイレンも無視するし、おまけに酒気帯びさ、駆けつけた警察官にも演歌は日本の心、K二郎先生の男の演歌を聞いて走って何が悪いって毒づいている」

さすが、観音様の巫女ソフィー、光の家の駐車場監視カメラ映像から、そこまでリンクして調べ上げている。


「そのことを光君は?」

春奈は気になった。

「うん、史さんの口から聞いたみたい、史さんも暴走トラックのことと、救急車両の遅れを怒っていたから、調べたのかな」

ソフィーが答えた。


「うわー・・・そうなると、光君は自分を責めちゃうかなあ・・・」

ルシェールは難しい顔になった。

「そもそも、自分が家の前で走らなければなんだけど、暴走トラックと緊急車両との接触までは責任はないよ」

春奈は光が本当に可哀そうに思う。


「いや、でもね、光君みたいな多感な子は、そう思っちゃうのさ」

「光君が一番好きだったお母さんが、自分がはしゃいで走って帰ったことで、命を落してしまった」

「幸せの絶頂から一気に地獄の底に落ちてしまった」

「だから、あの日のことでずーっと自分を責め続けている」

ソフィーは、首を横に振った。


「その傷が癒えないと、とても恋とか・・・」

ルシェールは肩を落とした。


「でもね、それは悔やむことだけど、光君のお母さんも、それじゃ困るって思っているはず、光君のお母さんが一番喜ぶのは光君の笑顔のはず」

春奈はまた泣き出した。


「ただね、お父さんからその話を聞いた時から、光君の顔は能面になった」

ソフィーは、はっきりと言い切る。

「そこで、心を閉ざしたのか」

ルシェールは、肩を落としたままになっている。


「学園で最初に保健室に担ぎ込まれた時も、まったくボンヤリ顔だったなあ・・・」

春奈は、腕を組んで考え込んでいる。




「とにかく、光君の身体に力をつけるものを食べさせないとね」

ソフィーは二階を見上げた。

光は、春奈から風邪薬をもらい寝てしまった。


「そうだねえ、胃も弱っているかなあ、そうなると・・・」

ルシェールは何か光が食べることのできる消化のよい料理を考えている。


「そうなると、お粥、おじや、リゾット系かなあ、夏の時は茶粥にしたよ」

「下向いて顔を真っ赤にして食べていた」

春奈は、夏に倒れた時の事を思い出した。

真夏の自治会の運動会で日焼け止めも塗らず帽子もかぶらず、熱中症になりダウンした時の光である。

思えば、春奈が光の家で料理を作ったのは茶粥が最初だった。


「それでも、もう少し身体が温まるものがいいな」

春奈はソフィーの顔を見た。

ソフィーも春奈の意図がわかったようだ。


「ルシェール、トロトロのビーフストロガノフ作るよ」

「私と春奈さんは、食材買い出しに行って来るから、光君のこと見ていてね」

ソフィーも春奈も決断したら、行動は速い。

即座に玄関を出て、買い出しに出かけてしまった。

光の家には、ルシェールと布団をかぶって寝ている光だけになった。



「あ・・・今は、光君のこと、独占なんだ」

「ほんの少しの時間だけど、二人きりだ」

ルシェールは、風邪気味で寝ているとはいえ、どうしても光の顔が見たくなった。

不用意に光を起こさないように、慎重に階段をのぼった。

起こさないため、ノックもしないで、光の部屋に入る。


「うん、本当に寝ている」

「でも、可愛いなあ」

「ずっと、子供の頃から光君のこと、好きだった」

「好きだったし、心配でしょうがなかった」

光を見つめるルシェールの瞳から涙がこぼれて来た。


「そんなね、光君、自分ばかり責めちゃだめだよ」

「お母さんだって、そんな光君の姿、喜ばないよ」

「光君のお母さんは、光君の命を救ってお亡くなりになったの」

「光君はね、自分を責めるんじゃなくて、お母さんの気持ちを考えてあげないと」

ルシェールは光の手を握った。


「指が細いし、長いなあ、きれいな指」

「子供の頃から光君と手をつないで奈良公園を歩くの好きだった」

「光君、私より年下だけど、手をつないでいると安心出来る」

「ずっとつないでいたら、華奈ちゃんも楓ちゃんもソフィーも、怒っていたなあ」

「光君が離してくれないって、言い訳したら、もっと怒られた」

「それも、ずっと続いているのかなあ、これからもかな」

ルシェールは手の力を強めにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ