第34話音楽の授業に乱入する柔道部顧問
「着いた、ここか・・・」
「あれ?」
やっと柔道部顧問は、光のクラスにたどり着いた。
しかし、クラスを覗いても誰もいない。
「光!逃げたか・・・」
しかし、いないのは光だけではない。
そのクラスを使わない授業で、クラス全員が別の場所に移動しているだけなのである。
しかし、既に冷静な思考力が停止した柔道部顧問は、全て「光が逃げた」としてしまう。
そしてブシツケにもクラスの扉を開けてしまう。
「・・・音楽だと?」
教室の扉を開けた柔道部顧問に黒板の横の時間割が目に入った。
「まさか、男子学生まで音楽?」
「とんでもない、日本男子が・・・」
ここで、柔道部顧問の「国粋主義」が、更に感情に火をつけてしまった。
柔道部顧問にとって、音楽の授業など「西洋の児戯」、日本男子が学ぶものではないと考えている。
つまり、「女子供」なら、まだ許せるが、日本男子が学ぶのは軟弱この上ないのである。
「許せねえ!」
ますます顔を赤くした柔道部顧問は、今度は音楽室を目指した。
しかし、音楽の授業中に、柔道部顧問が音楽室に行って何をするのか、この時点で段取りなど何も考えていない。
もっとも、音楽の授業ではなく、普通の授業中でも何をするのか、実は何も段取りを考えていなかったのである。
柔道部顧問は、ついに音楽室の前に立った。
教室から、混声合唱とピアノの音が聞こえてくる。
「下らねえ・・・音楽なんて」
「男が西洋音楽を歌うなんて、大和魂に反するじゃねえか!」
柔道部顧問自身が、音楽は子供の頃から大の苦手であった。
何しろ、五線紙、音符、リズムというものが全く理解できない。
歌を歌っても、ガラガラ声で音程など何もない。
まるで野獣の咆哮のような歌になってしまう。
しかし、「国粋主義者」である柔道部顧問は、全く気にしない。
「要するに男は闘いで勝てばいい。音楽特に西洋音楽など児戯だ」と言い切ってきたのである。
結局、頭に血がのぼってしまった柔道部顧問は、音楽の授業中にも関わらず、音楽室の扉を開けてしまった。
そして扉を開けるなり、叫んだ。
「おい!何だ!この軟弱な音楽は!」
突然入ってきて、野獣のような声で叫んだ柔道部顧問を、学生と音楽講師が一斉に見る。
「え?何ですか?柔道部の顧問先生!」
「今は授業中ですよ!どうして連絡も無く、途中で入って来るんですか?」
「どうして、それほど失礼なことをするのですか?」
「それと、校長先生の許可はあるんですか?」
音楽講師は矢継早に、柔道部顧問に問いただした。
音楽講師は三十代前半の女性である。
超名門の音楽大学のピアノ科を卒業し、一時はプロとして活躍した。
とにかく男勝りの気の強さで校内でも有名である。
柔道部顧問とは、もともと仲が悪い。
西洋音楽を「児戯」「女子供のもの」と否定する柔道部顧問とは、はなから肌が合わない。




