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阿修羅様と光君  作者: 舞夢
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マリア像の異変と阿修羅

「そのマリア様の像って、ルシェールの部屋にあるの?」

春奈は、時折テレビで放映される「聖母マリアの奇跡」なる番組を思い出した。

その番組では、聖母マリアの目から「黒い涙」が流れるなど、どうにもいかがわしさを感じるけれど、ルシェールが持つ聖母マリアは白木の像、そもそも赤い血が流れる原因が考えられない。


「うん、だから持って来たよ」

ルシェールは自分のバッグから聖母マリアの白木の小像を取り出し、テーブルに置いた。

ルシェールの言う通り、確かに赤い血が流れたような跡がある。


「それからさっきピエールの教会のマリア様も同じ現象が」

「まあ、そっちは多少、色がついているし、塗料の関係もあるかもしれない」

ルシェールは、毎日曜日、必ずミサには出席する。

そこで、午前中、その現象を見て来たらしい。


「うーん、となるとねえ・・・偶然とは言えないなあ。何等かの関係というか、マリア様が何を言いたいのか、告げたいのか」

「ルシェールがこの家にまで持って来るんだから、直接の話かなあ」

そう言って光は白木のマリア像を手に取り、見つめている。


「うん、私が何を聞いても、黙っているの、いつもは何等かの啓示があるのに」ルシェール

「おそらく、特別の頼み事でもあるのかなあ、それもルシェール経由で」

春奈は、再び腕を組んで考え出している。


しかし、光は白木のマリア像を持っているだけ、確かに光の目が光っているので、阿修羅が何等かの話をマリア様としているらしいと察知するけれど、全く内容までは読み取れない。


そのような状態で、玄関のチャイムが鳴った。

光は白木のマリア像とご対面が続いているし、ルシェールも未だ暗い顔のまま、ここは春奈が出るしかない。


 ソフィーが入って来た。

「お取り込み中だと思うけど、関連する話なので」

ソフィーはそう言って少し笑った。

少なくとも、ルシェールのような深刻な顔ではない。


「ああ、助かります、私もどうにもならなかったの」

春奈は、素直に頭を下げ、ソフィーをリビングに誘った。


「ねえ?光君、大丈夫だよね、ルシェールの心配し過ぎでしょ?」

リビングに入るなり、ソフィーはルシェールではなく、光に声をかけた。

光は白木のマリア像とご対面を続けながら頷いている。


「ほら、ルシェールが心配するから」

春奈が声をかけると、光はようやくマリア像をテーブルに置いた。


その光の顔は、まったく冷静。


「ソフィーの言う通りだよ、ルシェールが心配し過ぎなんだ」

「マリア様も心配性なところがあるんで、メッセージを出したんだけどね」

光の語調が少し変わった。

それに、話の中身からして、既に話し手は阿修羅。


「そうだねえ、マリア様は、イエスの時も本当に受胎告知から始まって、最期まで心配のし通しだったからねえ」

ソフィーも不思議なことを言いはじめた。

春奈とルシェールは、あっけに取られている。


「確かに、阿修羅に匹敵するくらい強い相手だけれどね、とにかくマリア様が心配しているのは光君の身体さ」

「今回マリアの御子には、この光君の万が一の場合の蘇生をお願いしているだけ、それを心配し過ぎている」

「この光君も、多少は強くなったけれど、まだまだ、心もとない」

阿修羅の声が、ルシェールと春奈の頭の中に響き渡る。


ソフィーが光の後をつないだ。

「うん、聖母マリアに受胎告知をしたのは、ガブリエル」

「霊界において、そのガブリエルを創り出したのは、そもそも最高神阿修羅」

「ミカエル、ラファエルも阿修羅の創造だよ」

「お地蔵さんも、観音様もそうだけど、全ての人に善いものをもたらす光の源泉、創造の源は、阿修羅の光だよ」

「美紀さんが言っていたけれど、全てのメインスイッチなんだ」

「それを霊界ではない、現実の物質的な世界では、メインスイッチが阿修羅の血なんだ、今は全世界で光君だけが持っている」

「だから、どうあっても光君を護って、世継ぎをつくらないといけない」

既にソフィーの身体は光り輝いている。


それを見て、ルシェールと春奈は震えてしまっている。


「そんな怖がらないで、要するにマリア様が、阿修羅とお話をしたかっただけさ、直接ね」

阿修羅の声が聞こえたのは、そこまでだった。


全員がまばゆい光に包まれたと思った直後、再び光家の平穏なリビングに戻っている。


「うーん・・・」

未だ、目をしばたいている巫女たちの耳に、光の「いつもの寝ぼけ声」が聞こえて来た。

それに、見えて来た光は、本当に眠そうな顔をしている。

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