光と由紀を待つ巫女の様々、華奈は相変わらず
「私にとって、今後に役立つ御力とは・・・」春奈
「全員異なる?うーん・・・」ルシェール
「今、持っている力とは違うとなると、何だろう」ソフィー
「ずっと若いままの容姿でいる御力がいいな」美紀
それぞれ、まだ御祈祷を受けたばかりで、特別に与えられた御力について、判然としないようであるけれど、華奈だけは反応が異なっている。
「そうかあ、この華奈の可愛らしさに加えて、光さんを射止める御力か」
「ついでに、ルシェールみたいなスタイルになれるのかもしれない」
「確かに、今のままのスタイルでは、ちょっと遠くから見ると、まるで小学生って楓ちゃんが言っていた」
「それでは、光さんを支えるには、心もとないと言われても仕方がない」
「今日から、寒川様の御力をさらに具体化するために、行動を開始しよう」
「まずは、毎晩、バストアップ体操だ、これで、光さんは確実に、華奈のものさ」
どう考えても「浅はかな発想」であるけれど、華奈はそれを思いついただけで、満足してしまった。
そして、その「浅はかな発想」は、周囲の巫女たちに簡単に読まれている。
「それ以前の問題がある」春奈
「ちょっと、ヒンシュクだなあ、私にはかなうわけがない」ルシェール
「やはり、発想が単純すぎる、寒川様も頭を抱えているかもしれない」ソフィー
「そんなねえ・・・その前に勉強、整理整頓、料理・・・どれをとっても私の中学生当時に及ばない」
美紀は、すでに怒り顔になっている。
ただ、華奈はんだんキョロキョロとし始めている。
「華奈!大神様の前で落ち着きがない!」
母親美紀が叱るけれど、華奈はキョロキョロをやめない。
「だって、光さんと由紀さん、どこに行ったの?」
華奈の顔は少しずつ深刻な表情を見せている。
「うん、二人きりだね、光君だけ別の場所で・・・」
春奈の顔には、焦りがにじんでいる。
「そうです、これは、本当に危険です、ここは寒川様の前で安全ですが危険です」
普段はやさしく冷静なルシェールの言葉は支離滅裂、何かを感じ取ったかのようだ。
「むむ・・・そうか・・・そういうことだったのか」
ソフィーの表情も著しく変化した。
さすがは観音様の巫女、光と由紀の全てを「読んで」しまった。
そして、そのソフィーの「読み」は、即時に他の巫女も感じるところとなった。
「うーん・・・でもさ、過去世だよね」美紀
「過去世なら、私が一番古いし回数多いよ」春奈
「いや、回数の多さだけじゃない、密度も大切」ルシェール
「私の時も、幸せだった」ソフィー
「ところで、私の時ってあったのかなあ」
華奈は首を傾げている。
「え?光君の娘だった時はあるらしいよ」
春奈は圭子に聞いた過去世の話を思い出した。
光と春奈が夫婦で、「最後に華奈が生まれた」話である。
しかし、あえて「光と春奈の娘」とは言わない。
「そんなこと言って、住みつかれても困る」
こういう時に、ついつい本音の対応をしてしまう春奈である。
「そうだねえ・・・華奈ちゃんが光君のお嫁さんって過去世は・・・」
ルシェールは首を傾げた、どうにも思いつかないようだ。
「うーん・・・言いづらいけどさ」
ソフィーが読んでしまったらしい、含み笑いをしている。
それには、華奈の表情が変わった。
とにかく華奈は、焦っている、ソフィーの次の言葉をジリジリとして待つ。
「いつも、華奈ちゃんは光君と、まとまる寸前でね、大失敗しちゃうの」
「それでね、春奈さんとか、ルシェールとか、ソフィーとか、美紀さんの時もあったな、奈良の他の巫女さんもそうだけど、ああ由紀さんも由香利さんにもね・・・奪われちゃってさ」
「とにかく、寸前で、大失敗して、光君を取り逃しているの」
ソフィーの次の言葉は、華奈にとって「とんでもない言葉」だった。
もう、相当なショックを華奈に与えている。
その上、春奈、ルシェール、母親美紀まで拍手して大笑いになっている。
ますます、華奈の顔は、ご機嫌斜めになった。
「まあ・・・過去世ですから」
刑事は、華奈の過去世の悲惨さと、あまりのムクレ顔がかわいそうになり、ようやく口を挟んだ。
「そうさ、これからさ、きっと、過去は過去、おばあさんたちのもの」
少々勘違い、捉え違いをしているけれど、華奈は何とかその心を落ち着けようとする。
その華奈の姿に、他の巫女たちが呆れていると、ようやく光と由紀が顔を出した。
「何さ、二人とも真っ赤な顔して、気に入らない」春奈
「うん、あの歌垣の時は残念ながらルシェールはいなかった、ただ、それだけのこと」ルシェール
「私だってきっとそういう時があったに違いが無い」ソフィー
「華奈さえいなければ、特別若返りの御祈祷をお願いするかなあ」美紀
「今日のところは大目に見てあげる、まずは自分の実力を磨こう、今夜から必ずバストアップ体操だ、確かに温泉では少し恥ずかしいほどだった、勝っていると思っていた楓ちゃんにすら、負けていた」
華奈は相変わらず見当違いのことを考えていたけれど、取りあえず寒川神社での御祈祷は、無事終了となった。




