にぎやかな朝食
「まあ、難しいことは止めましょう」
「そういうことを少し忘れるために、集まったんだから」
「緊張し通しは、身体にも心にも良くない」
ルシェールが再び微笑んだ。
まさに、薔薇のような輝きを感じる。
「そうだね、ゆっくりじっくり食べよう」春奈
「ほんと、美味しい、ポトフもパンもサラダも」
華奈は自分が作ったサラダを付け加えることを止めない。
「週末は、寒川様でしたっけ」ソフィー
「うん、行ける人全員で行こう」光
「そうだね、初詣と厄払いが必要だ」美紀
そこまではよかったけれど
「帰りに、鎌倉でお刺身食べたい」
華奈、突然変わったことを言い出した。
「今、こんな美味しいポトフ食べている最中になんてこと言うの?」
美紀は呆れている。
「ああ、それなら旬の魚を準備させるよ、そういえばニケが光君に会いたいって言っていたよ」
ソフィーは、そのままスマホでニケと連絡をしている。
「それじゃあ、寒川様と、この間行かなかった大仏様と長谷寺の観音様も見るかなあ」
光は鎌倉で行きたいところがあるらしい。
「あ、私、そういえば鎌倉の大仏様見たことない、見たい!」春奈
「長谷寺からの海も綺麗だよ」ソフィー
「うん、やっと楽しくなって来た」美紀
美味しい食事の後は、恒例となった光の珈琲を飲み、三々五々帰った。
「光君、ある意味積極的に出るところと、周りを活かす、金剛力士とかソフィーを動かせたみたいに、成長したのかな、ますます離れがたいなあ・・・」
春奈の心の中で、光の存在が本当に大きくなっている。
寒川神社への出発は、午前九時の予定。
しかし、光の家は、午前七時の段階で、既に大騒ぎになっている。
キッチンでは、華奈、ソフィー、ルシェール、美紀、春奈が動き回っている。
「だって、こんな立派なパン焼き釜使わないのが、もったいない」美紀
「結婚したら、光君のために毎日焼く」ルシェール
「トルコ風ピザも出来そう」ソフィー
「それってどんなの?」華奈
「ああ、船の形をした生地が独特のピザだよ」ソフィー
「へえ、面白そう、今度さ、ピザパーティーやろうよ、いろんなピザ焼いてさ」春奈
「いいねえ、でもさ・・・」華奈
「え?何か問題ある?」ソフィー
「絶対、奈良の楓ちゃんには内緒だよ、本当に拗ねるからさ」華奈
「うーん、そうだよねえ、拗ねるね、きっと」春奈
「それはそうだねえ、あの子だけ奈良だしね、若い子はみんなこっちに来ちゃった」美紀
「そう?お母さんは、その若い子に入らないけど」
どうしても華奈は、余計なことを言ってしまうようである。
そして、いとも簡単に返り討ちに会う。
「どうして生地丸めるの下手なの?」美紀
「うん、確かに不格好です」ルシェール
「ただ、ぎゅっと押しているだけ、指先の細かい動きも必要なの、みんなの指の動きを見て」春奈
「こんなことなら楓ちゃんを家で引き取って、華奈を圭子さんに預けるかなあ」美紀
「ああ、それっていいかも、楓ちゃんの顔が見たくて仕方ない」ソフィー
ソフィーにまで言われてしまい、華奈は既に涙目、それでも必死にパン作りに取り組むけれど、華奈作成パンの出来上がりは、特に形が芳しいものにはならなかった。
それでも何とかパンは焼きあがり、光が淹れた珈琲を飲みながらの朝食になった。
「ねえ、光さん、私の作ったパンを半分あげる」
華奈は自分の作ったパンを半分にちぎり、光に渡している。
「あ、ありがとう、うれしいな」
光は、一応、お礼を言い食べ始めるが、華奈以外の巫女たちが期待するような反応はない。
あまりの反応の無さに、声もかけ始められる。
「ねえ、まずかったら、食べなくてもいいよ、どうせ華奈のパンだし」美紀
「はじめて作ったパンだから、なかなか美味しくないかも」春奈
「すぐに口直しで、私のパンを食べてね」ルシェール
「ああ、でも、食べて飲み込んだよ」ソフィー
結局、光は華奈からもらったパンを全部食べてしまった。
「そんな、大丈夫さ、華奈ちゃんが、一生懸命に作ったパンだもの、形とか食味だけじゃないし、その心を味わうのさ」
光の表情には何も変化がない。
「これは案外我慢強い」美紀
「案外、救いの御子かも」ルシェール
「ああやって、やさしいことをしちゃうから、華奈ちゃんはつけあがる」春奈
「うーん、なんだかんだと言っても、華奈ちゃんの可能性も強いなあ」ソフィー
それぞれが、それぞれの思いを持ちながら、にぎやかな朝食となった。




