ポトフを囲んで
しかし、その自然な笑みが春奈には、少々気に入らない。
「確かに美味しそうな匂い、美味しいとは思うけど、どうしてそれを知っているの?」
「全く危なくて仕方がない」
そんな思いで、春奈は光の顔を見た。
「そうだなあ、最後に食べたのは小学校五年生の時だよね、奈良のクリスマスパーティーだった、すごく美味しくてさ」
光は、笑顔のままである。
「うん、母ナタリーのレシピに、少しハーブを効かせて作ったの、あの時まで光君って人参ダメだったんだけど、よく食べてくれてね」
ルシェールはニッコリとする。
「え?春奈さんはともかく、私、それ知らないよ」
華奈の記憶にないらしい、華奈は首を傾げた。
「あら、私覚えているよ、私も、ポトフ食べたし」
しかし母の美紀は、よく覚えているようだ。
「そうだよね、圭子さんも美紀さんも美智子さんも来てくれたよね、何で来なかったの?あの時」
ルシェールは華奈に尋ねた。
「あ、思い出した、あの時さ」
しかし、光が珍しく思い出した。
「何かあったんだっけ」
美紀が光の顔を見ると
「うん、楓ちゃんが、薬草から特製の薬を作って持ってくるって言ってさ」光
「あーー、思い出した!それを二人で先に飲んだら、お腹痛くなって行けなかったんだ」
華奈も思い出したようだ。
「そうかあ、楓ちゃんが悪いんだ、そんなこともあるんだ」
ソフィーもやっと納得した。
そんなたわいもない話をしながら、なんとかポトフの最終味付けも終わった。
華奈のサラダ作りは、美紀、ルシェール、ソフィーに厳しく指導されながら、「何とか食べられる程度」のものになった。
「ふう、この家って落ち着く」
美紀は、少し赤ワインを飲みながら、ポトフを食べている。
「このハーブの使い方かなあ、後で教えて」
春奈も、本当に美味しいのか、じっくりと味わって食べている。
「ホッとする味だね、疲れが取れる」
光も、いつもにも増して、食欲があるらしい。
ポトフもパンも多めに取っている。
その光の取り皿に、華奈がサラダを入れている。
「まず、私特製のサラダを食べないといけません」
華奈は、そう言うけれど、ほとんど他者から指示された通り、何をもって「華奈特製」というか、よくわからないものがある。
「でも、駅前は大変だったね。お疲れさま」
ルシェールは、心配そうな顔になった。
「ああ、まさか、あの真面目な喫茶店で騒動を起こすとは思わなかったけれど」
「あの駐在所も、腐りきっていたからさ」
ソフィーは、少し暗い顔になった。
「金剛力士様も、相当手加減していたね」華奈
「うん、地面に叩きつけるにしても、相手が弱すぎて力を出し切れないってさ」春奈
「人間の武器なんて、通用しない、霊界の存在にはね」
ソフィーは深いことを言うけれど
「それにしても、あのダウンとジーンズ、革靴、禿頭に帽子は違和感があったなあ」
光はいつのまにか、阿修羅の口調になっている。
「そういうこと言うから、口争いが起こるの」
春奈は、少し心配になる。
「なるべく普通のおっさんみたいな恰好にしたんでしょ、まあ正解さ」
ソフィーとしても、金剛力士たちの意図を理解する。
金剛力士二体の変化姿も話題になった。
光家の外で警護する金剛力士にも、その言葉は当然聞こえ、二体とも苦笑いになっている。
「あれだけ、大っぴらに群衆の前で失態をさらけだしたんだから、あの警察署の処分もきつくなるの?」
春奈は、ソフィーの顔を見た。
「うん、あそこの駐在所に限らず、監督責任はかなり上まで行くね、しかも反社会的勢力との癒着だしね」
ソフィーの顔も厳しい。
「今回の敵は、そう言った社会的な敵が多いね」
春奈は、今度は光の顔を見た。
「うん、警察関係とか、政治家もあるかな・・・」
「芸能プロダクションも反社会的勢力と関係していたけれど」
「いわゆる、ゴウマンな考えを持つ輩、それにより相手の破滅、破壊を喜びとするもの」
「善を滅ぼし、悪に加担する、そういう悪の霊が取りついた相手かなあ」
光は、少し難しい顔になった。




