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阿修羅様と光君  作者: 舞夢
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平穏な学内 地蔵菩薩の出現 そして異変?

学園内では、平穏な状況が続く。

光も由紀も、いつもと全く同じように授業を受けた。

もちろん、由香利も華奈も同じ、春奈にいたっては、保健室に誰も来ない、とにかく平和過ぎて暇な状態になった。


「うーん、さすがは金剛力士だなあ」

「あの校門の前に立っているだけで、全然安心感が違う」

春奈は、あまり暇なので、保健室の窓から校門の前に立つ金剛力士を見ている。

それでも、時折金剛力士の腕が動くことがある。


「きっと、校門の前を歩く人の小物の邪鬼とか邪念をひねりつぶしているのかな」

「結局どんな人でも、善い面と悪の面があるしなあ」

「両面があるから、人間の人間たる所以かもしれない」

春奈は、金剛力士の動きを見ながら、哲学的なことまで、考えている。


「ほう・・・さすがは春奈さん、癒しの巫女様ですね」

突然、隣から優しい穏やかな声が聞こえて来た。


「え?」

驚いて春奈が隣を見ると、まさかの地蔵菩薩が立っている。


「いつから、ここに?」

春奈は、少し焦った。

暇つぶしを見られてしまって焦っているのである。


「ああ、仕事がない時は、しょうがないですよ、つまらないことは気にしないでいいですよ」

地蔵は、やさしく微笑んでいる。

春奈としては、やさしく微笑まれると、かえって恐縮してしまう。

何しろ相手は、あの地蔵様である。


「まあ、今回も少しずつ動きが出始めましたのでね、私も一回りして来ました」

「そうですね、あの悪神が狙いそうなところは、全て結界を張りました」

「ああ、観音様の巫女のソフィー様と一緒ですよ、ご心配なく」

「その前に、八部衆が全て、細かな邪鬼といっても今は全て邪鬼程度ですが、退治してあってね、その残骸を回れば全て結界が張れる」

地蔵の口から、驚くような言葉の連発である。

春奈は、ますます恐れ入ってしまう。


「それで、最終決戦までは、この体制で守ります」

「だから、それまでは大きなことは何も起こりません」

「あの光君の体調、少しは強くなって来ましたが、しっかりと管理をお願いします」

地蔵は、そう言って春奈に手を合わせた。

そして錫杖の鈴を鳴らし、その姿を消してしまった。


「うわー、何だったんだろう・・・今の話」

「最終決戦がさっぱりわからないし」

「地蔵様って、本当は何もの?」

「まあ、体調管理は当然なんだけどね・・・」

春奈の、「不思議」は、ますます深くなっている。




地蔵の言った通り、全く平穏なうちに一日の授業が終わった。

放課後は、音楽部、軽音楽部、合唱部に校長、祥子先生と光を含めて、練習をする曲などの打ち合わせになる。


「まあ、編曲は困るようだったら、小沢先生だと恐れ多いから、晃子さんとか後輩に頼むとします、私も少しやらないと、間に合わないかなあ」

祥子先生が、驚くほど各部の部員たちから提出された「やりたい曲」が、様々だった。

クラシック、ロック、ポップス、ジャズ、ボサノヴァほとんど全てのジャンルの曲が出て来ている。

 

「そうですねえ、編曲次第でいろいろですよね、でも、考えるのも楽しいかなあ」

軽音楽部の久保田も腕を組み考えている。


「ポップスにヴォーカル・アンサンブルも好きだよ、伴奏は控えめでさ」

一月から合唱部の副部長になった由紀は、すでに構想がかたまりつつあるようだ。


「音楽部の編成が小さくなれば、逆にバッハとかヘンデルも出来るかなあ、宗教曲ならいいな、クリスマスコンサートみたいな感じ」

合唱部の浜田は、既に音大声楽科に推薦が決まっている。

そのため、積極的に打ち合わせに参加している。


「ところで、演奏する日はどうしましょう?」

光が、校長に基本的な質問をした。

「ああ、それはね、卒業式後の三年生の謝恩会を考えている」

「会場は、そのためね、学園の多目的ホールでとね、多少、小編成では広いけれど、まあ、ギリギリかなあ」

校長は、卒業式の日を考えているらしい。


「うん、無難というか、一番いいかも」由紀

「全く問題なし、マイク設備も完璧だし」久保田

「ああ、人も集まりやすいしね、準備も楽」浜田

「練習もそれなら、しっかり出来るね」光

演奏日と会場は、校長の考え通りとなった。


その後は少々選曲の打ち合わせを行って、帰宅となった。

いつものように、春奈、華奈と校門に出ると、金剛力士二体が立っている。


「はい、ご苦労さん、どうだい、昔のままの奈良と違って面白いだろう」

光の口調は、いきなり阿修羅と化している。

「ああ、面白いって言えば面白い」

吽形も、だんだん話すようになっている。


「まあ、奈良は観光客、つまり遊びで歩いているんだ、だからそれほど邪心もない」

「ただ、ここを歩く人は、余裕がないなあ、みな焦っている」

阿形は少し首を傾げている。


「つまり、金が無いとか、学問の成績がどうとか、受験の合格不合格」

「仕事をする人も、成績とか出世とかな、まあ、いろいろさ」

「とにかく余裕ってものがないな」

阿形は細かい心の中まで、読んでいるらしい。


「まあ、そういう余裕の無さが、様々な問題を巻き起こすのだが」

歩きながら金剛力士二体と話をしていた光の表情が変わった。

駅の方角から何か騒ぎの声が聞こえて来た。

そして、その騒ぎの声に混じって、若い女性の悲鳴も聞こえてくる。

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