第31話光が柔道部員を投げ飛ばす?
「え?」
次の瞬間、野村をはじめとして周囲で見守る男子学生、柔道部顧問がキョトンとした顔になった。
宙に浮いていた光は、くるっと身体を回して軽く着地したのである。
まるで空中宙返りとしか、言いようがない。
「あれ?」
野村をはじめとして全員が首をかしげる。
「おい、遊ぶな!」
柔道部顧問から声がかかる。
「はい!」
野村が返事をして、再び光に投げ技をしかける。
しかし、結果は同じ。
投げられた瞬間、光は宙返りをして軽く着地をする。
足払いをしかけると、その足を軽くかわす。
そんな状態が長く続いた。
柔道部員野村の顔に焦りが浮かんでいる。
息も切らしている。
しかし、光は、いつもの通りぼんやりとした顔である。
全く疲れも焦りも表情に無い。
「僕が少し技をかけてもいいのかな」
そんな光は野村に、小声で尋ねた。
「え?」
乱取りだから、技をかけあうのは当たり前である。
しかし、野村にとって柔道初心者の弱々しい光に「技をかけられる」など、ありえないし、かけられたら柔道部の恥になる。
野村は腰を落として、必死に防御の姿勢を取った。
「わっ・・・」
しかし、野村の必死の腰を落とした防御も意味が無かった。
光が野村の腕を取ると、今度は野村が宙に舞った。
そして、野村は畳にたたきつけられてしまった。
「え?」
柔道場にいる全員が目を見張った。
都大会三位、技巧で鳴らす柔道部野村が、あの弱々しい光に綺麗に投げられ、畳にたたきつけられてしまったのである。
「そんなのまぐれだ!」
柔道部顧問から怒声が飛んだ。
野村は弾かれたように起き上がり、光に組み付いた。
しかし、結果は同じであった。
野村が光に組み付いた瞬間、野村の身体は宙に浮き畳に叩きつけられてしまう。
それも受け身を取るのがギリギリの速度なのである。
何度組み付いても同じであった。
野村は光を投げることはない、野村が光に、まるで人形のように投げられているのである。
最初は信じなかった柔道部顧問の顔が驚愕に変わった。
「あの・・・」
光は、既に何度も投げられて疲労困憊の野村に、声をかけた。
「・・・うん・・・」
野村は、既に息が荒くほとんど声が出ない。
「他の人も乱取りというのしないと・・・」光
確かに光の言う通り、柔道場にいる全員が信じられない光景に見入ってしまっていた。
「・・・そうだね・・・」
野村は、ここでようやく声を出した。
もはや光と乱取りをする体力も気力もが残っていない。
野村は、光から腕を離し、柔道部顧問の所に向かった。




