金剛力士と八部衆の文句!
「え?何か?」
阿修羅とて、地蔵のニヤリとした顔は珍しい・・・が、さすが最高神、気づいたようだ。
「そう、お感じになられた通り、かなり出たがっておられますよ、金剛力士もね」
地蔵は、うれしそうに笑っている・
「ああ、そのままの姿で、最後に出てもらおうかと思っていたんだけど」
阿修羅も、少しは金剛力士の出番を考えていたようだ。
「うーん・・・そうですねえ、地蔵も早すぎると思いますがねえ・・・でもね、彼らは何しろ、阿修羅だけが楽しんでいるって聞かないんですよ」
地蔵も、かなり金剛力士から言われているらしい。
「正月の温泉かなあ、それが気に入らないのかなあ」
阿修羅は、思い当たることがあった。
「それなんですよ、阿修羅だけが温かい温泉、自分たちは寒さがキツイ奈良、しかも東大寺南大門で吹きさらしでってね、もうずっとブツブツですよ」
「金剛力士は、夜に南大門を蹴破ろうなんて言い出すし」
「それと・・・」
地蔵はここでまた、ニンマリ。
「お仲間の八部衆も、かなりなんです、阿修羅だけが美味いものを食べ、音楽をして、適当に暴れて楽しんでいるって」
地蔵は、頭を掻いている。
「全く、大人げないなあ・・・八部衆もか・・・まあ、人の顔をしているのもあるけど、鳥そのものの顔もいるしなあ」
「何とか、考えるよ、そこまで地蔵さんに言われたら仕方がない」
阿修羅と地蔵の会話で聞こえたのは、そこまでだった。
春奈も途中まで、耳をそばだてていたけれど、全く聞こえなくなった。
「という話になると、八部衆がそろそろ顔を出すのかなあ」
「金剛力士は、この間見たけど、そのままの姿だった」
「とにかく、八部衆をもう一回オサライしないとなあ」
春奈も、八部衆にそれほど詳しいわけではない。
ただ、出現した時に、しっかり対応しないといけないと思った。
光の保護者であり、「本当の妻」として、恥ずかしいことは出来ないと思ったのである。
「でもいいや、詳しいことは圭子さんとか美紀さんに聞こう、最終的に奈良に行って聞いてもいいや」
春奈の頭に、興福寺国宝館が浮かんだ。
そして阿修羅像を中心に、立ち並ぶ八部衆を思い出している。
しかし、それで安心してしまい、春奈もまた眠りの世界に入ったのである。
翌朝の登校もソフィーの警護となった。
リビングに入ってきたソフィーに春奈が声をかけた。
「ああ、ありがとう、今度一緒に朝ごはん食べようか?」
春奈も、ソフィーの熱心さ、生真面目さに声をかける。
「ああ、すみません、ただ、警護の仕事もありますし、それに家でしっかりと食べないと、母のニケが怒りますし、私もまだ体型を気にしますので」
ソフィーの反応は常識的なものである。
何ら考えていない華奈にとっては、強烈な一撃と思うけれど、華奈の口の中は、二回目の朝ごはんで膨らんでいる。
「口じゃなくて他にもねえ・・・」
春奈は、ご飯を頬張りすぎて、話が出来ない楓に強烈な一撃をかける。
しかし、華奈は口の中にご飯を詰め込み過ぎて、何ら反発が出来ない。
それでも、懸命に春奈の脚を蹴飛ばそうとしたが、春奈もさるもの、軽くかわしている。
華奈は、考えた。
「そうだ、あまり食べ過ぎて、まかり間違っても楓ちゃんみたいなお尻になってはいけない、その肉は、光さんを魅了する胸につけるべきだ」
「後でネットで調べて対策を考えよう」
華奈は、それで落ち着き、ようやく口一杯のご飯を飲み込んだのである。
「ところでね、春奈さん」
ソフィーが鞄の中から、レポートを取り出した。
「へえ、何?」
春奈はソフィーから渡されたレポートを手に取ると「興福寺八部衆について」と書いてある。
「うん、このレポートを読んでおいて」
ソフィーは微笑んでいる。
「わーーーありがとう、圭子さんとか美紀さんに聞こうかと思ってね、それでもわからなかったら、奈良に行こうかと思っていたの」
春奈は、頭の中を読まれたとも思ったが、相手が「観音様の巫女ソフィー」では仕方がない、素直にお礼を言った。
「ああ、いいですよ、週末に奈良に行っても良かったんだけどね、光君も都合がありそうだしね」
ソフィーは、光の都合も読んでいるらしい。
ただ、その「都合」は、春奈も華奈も何も聞いていない。
「え?ソフィーにわかっていて、この春奈さんにわかっていないって、どういうこと?」
春奈の微笑みが消えた。
「全く、この許嫁の私を差し置いて、光さんは秘密が多すぎる、結婚したら柱に縛りつけておくしかない、結婚するまでは手錠して暮らす!」
華奈も、怒りすぎて、発想は過激を極めている。
「えっと・・・」
突然の、春奈と華奈のケンマクに、またしても光は「ウロタエ顔」になった。
その「ウロタエ顔」に同情したのか、ソフィーはあまりにも簡単に、「都合」を話してしまう。
「おそらくね、直接、光君から聞いたわけではないよ」
「でもね、初詣まだなんでしょ?」
「それで、光家の初詣は、寒川神社って決まっているよね」
ソフィーは、可能な限り「穏便な」表現で話したつもりである。
しかし、春奈も華奈もさるもの、しっかり光と由紀の「密約」を、感じ取り「お怒り」の表情となっている。
しかし、一高校生が同級生が巫女をつとめる馴染みの神社に、一人で行こうが行くまいが、そんな「怒り目」で見る方が異常かもしれない。
ソフィーは、同情の目で、光を見ているのであった。




