華奈VS春奈 地蔵がニヤリと・・・
「清水さんにも、少しでも早く良くなってもらって、一緒に演奏をしたくて、その励みになるかなあと思ったんです」
光は、少し恥ずかしそうに笑った。
「うん、そうかあ・・・それはいい話だ」
「本当に、清水さんには、いろいろやってもらってさ」
「そうだね、清水さんのためにもね、やろうよ」
音楽部員の気持ちは、これで固まったのである。
音楽部での話し合いも終わり、合唱部部長浜田や、軽音楽部副部長久保田の了承も簡単にあり、祥子は校長に結果の報告を行った。
校長も全く異存はなかった。
「そうですね、いいお話です」
「無理が無い程度に練習をして、大ホールだと大きすぎるかなあ」
「ただ、話が伝わると聞きたい人も多くなりますね」
校長は既に会場の心配も始めている。
さて、光は春奈、華奈と校門を出た。
「そう、そんな風になったんだ」
春奈は、光の意外な積極性に驚いている。
「うん、合唱部も軽音楽部も簡単に了解したよ」
光も安心した顔になっている。
「私、ソロに自信ないなあ・・・」
ただ、華奈は顔が少し暗い、まだまだヴァイオリンにも自信が無い。
オーケストラでは、他の人が何人か自分と同じパートを弾くので、多少の音程のズレはごまかせるが、室内楽ではまったく「ゴマカシ」が効かない。
ある意味、オーケストラでの演奏より、精度を要求されるのである。
「そんなこと言ったって、練習するしかないでしょ?」
春奈は、久しぶりの華奈の暗い顔が気になった。
いつもは「小娘華奈」と思っているけれど、それは華奈の「若さだけに依存する自慢顔」が気に入らなかったため、暗い顔だと、同情心すら芽生えてくる「本来はやさしい春奈さん」なのである。
ただ、その「やさしい春奈さん」の同情心は、あっけなく破綻を迎えることになった。
「そっかーーー・・・春奈さんが、そう言ってくれるんだったら」
再び華奈のニンマリ顔が戻って来た。
「光さんの家って、完全防音、だから毎日練習しようっと・・・」
何のことはない、「ソロに自信がない」発言は、毎日光の家に居座るための、絶好の口実、戦略なのであった。
またしても、春奈の顔には「落胆」が満ちている。
さて、春奈の落胆はともかく、華奈は上機嫌、結局光の家では練習をしないで、すんなりと家に帰った。
「ああやって毎日の練習を怠るから、いつになっても上達しないのに」
春奈は、華奈の練習不足を把握しているけれど、「いなければいないでいいや、静かが一番」と思い、その日の晩は、平穏に過ごすことが出来た。
夜半、光は当然眠りこけ、春奈がうとうとしている時間帯になった。
久しぶりに地蔵と阿修羅の会話が聞こえて来た。
「まあ、お正月も無事にでしたね」地蔵
「ああ、この男の子も、少しずつ成長して来た」阿修羅
「阿弥陀様と勢至様、観音様とも?」地蔵
「うん、特に観音様は、地蔵さんの動きを羨ましがっていたよ」阿修羅
「まあ、こういう普通の坊さんみたいな風体なので、動きやすいんですよ、着飾っていたら無理」地蔵
「うん、そういう考え方もあるなあ、頼みやすい、我々からも衆生からもね」阿修羅
「いや、そんなにおだてられると少々ね・・・」
地蔵は少し笑い、真顔になった。
「ところで、そろそろ動きが出て来ていますね」地蔵
「うん、爆弾とやらを地に放ち、水の中から撃っているのもある」阿修羅
「既に阿修羅の故地は戦乱の中ですな」地蔵
「とにかく、暗闇と破壊、殺生が好きな神だ、考えも杓子定規で了見が狭い」阿修羅
「光の神、阿修羅が眩しいんでしょう、きっと、だから、懸命にアラさがしをして、暗闇へ引きずりこもうとする」地蔵
「結局、最後は負けるって運命なのになあ、そのまま暗闇で落ち込んでいればいいものを」
阿修羅は笑っている。
「ただね、少し話題を変えますが・・・」
地蔵がニヤリと笑った。




