音楽部の次の計画
午後の授業も終了し、音楽部の光は音楽室に行くことになった。
光自身としては、既に「サボリ」の意思を決めていたけれど、クラスを出た瞬間、待ち構えていた華奈に腕を組まれてしまった。
その上、華奈に叱られてしまった。
「新学期早々、サボるなんて何事ですか!」
「そういういい加減さが、災いを招き、この許嫁の華奈を心配させるのです!」
後ろで見ている由紀や、光のクラスの特に女子学生が、ハラハラするほど華奈の口調がキツい。
「そんな許嫁って自分だけで言い張っているだけでしょ?」
「由紀さんだって、由香利さんだって、あのクリスマスの時の超可愛い金髪の女の子だってさ、全て格上だよね」
「今朝顔を見せた、ソフィーって人だってさ、なかなかいい雰囲気だし」
「うーん・・・そうなると、春奈先生の目は、完全消滅だね」
「そりゃ、そうさ、もうね・・・歳がさあ・・・」
春奈が聞いたら、途端に機嫌が悪くなる、あるいは落胆極まりないような言葉が、クラスの女子学生たちから聞こえて来る。
ただ、華奈はそんな言葉など何も聞かず、光は華奈に「引きずられているだけ」、そのまま音楽室に入った。
「まあ、いつも同じで、仲がいいねえ」
音楽部顧問の祥子先生も、口をおさえて笑ってしまうほどであるけれど、今日は一月からの音楽部の活動予定の話し合いである。
「さてさて、文化祭、音楽コンサート、合唱コンクール、大聖堂での演奏、ほんとうにご苦労さまでした」
「評判が良くて、顧問としてもほっとしています、私も久しぶりにうれしいお正月を迎えることが出来ました」
祥子先生は、音楽部全員に頭を下げた。
「それでね、本題に、早速入るんだけど、もう三年生は受験勉強に専念だし、そのため、オーケストラはパートの関係で組めません」
「その関係もあって、毎年この時期は、先生の母校から後輩とかを呼んで、主に室内楽の練習になります、まあ、今年もそうなるんだけどね」
そう言い終えて、祥子先生は光の顔を見た。
祥子先生には、何か考えがあるようだ。
「そこでね、せっかく光君がいるんだから、今までと違ってもう少し発表の機会を持ちたいなあと考えているの」
祥子先生は、音楽部員全体を見回した。
「ああ、そうなると、室内楽でコンサートってことですか?」
「でも、かなり練習しないとなあ、ソロも聞かれちゃうし」
「去年は内輪で発表会はしたけれどね、どうしても緊張感がなかったなあ」
音楽部員も少し迷っているようだ。
「ああ、そんなに大々的に発表ということは無理ですよ」
「発表すると言っても、学園内でね、もともと室内楽を聞く人ってね、それほど多くないしね、出来る範囲でね」
祥子先生も、それほど手間暇をかけることは考えていないようだ。
多少学園内での発表機会を設けて、モチベーションアップを考えているのである。
「そうですねえ・・・」
光も少し考えていたけれど、ようやく意見を言うようだ。
「まあ、せっかく文化祭とか軽音楽コンサートで、面白かったので」
光はまず、祥子先生を見て、音楽部全員を見回した。
「合唱部とか、軽音楽部とか、この話に加わってもらってね」
「小編成というか、三人から多くて十人ぐらいまでで、曲をアレンジして練習するってどうでしょうか」
「もちろん、バッハとかモーツァルトとかクラシックも面白いし、ポップス、ロック、ジャズも含めてね、上手にアレンジして、いろいろ、出来る範囲で」
光の口から、誰も考えていないような発言が飛び出した。
これには祥子先生も音楽部員も驚いた。
冬の時期は、そもそもオーケストラとしての編成が組めないから、ある意味時間つぶしで室内楽を練習して来た。
それでも、今年は多少なりとも、モチベーションアップのため、音楽部内から学園内での発表ぐらいと考えていたのである。
音楽のジャンルとかはお決まりのクラシックであり、他のジャンルとか合唱部や軽音楽部との連携は、考えていなかった。
「そうかあ・・・そういえば、軽音楽部も合唱部も特にスケジュールはないしね」
祥子は頷いている。
「うん、面白いよ、アレンジしだいで何でも出来る」
「いやー、組み合わせも、楽しめるなあ」
「ジャズヴァイオリンって、一度聞いてみたかった」
「室内楽と、コーラスってどんな響きになるのかなあ」
「また、ボサノヴァやりたくなった」
「ねえ、軽音楽部と合唱部に声かけちゃおうよ、絶対乗って来るって」
「私、メール打つ!」
どうやら音楽部員は積極的になっている。
「ところで、光君、どうして、そんなこと思い付いたの?」
祥子は、光に聞いてみた。
「えっと・・・」
光は神妙な顔になった。
その顔に、再び祥子先生と音楽部員全員が注目する。




