お雑煮バトル
春奈の光宛年賀状の読み込みは、続いている。
「あらま、楓ちゃん、しっかり起きろ?来年から春奈さんの代わりで一緒に住む?馬鹿馬鹿しい!合格もしないくせに、全くおこがましい」
「ほー・・・華奈ちゃんか・・・まるで小学生の年賀状だなあ、丸文字でさ、でも変な梵字?ああ、阿修羅の梵字か、それをハートマークで包んでいる、何かなあ、意味不明だ、いつものことさ」
特に楓と華奈からの年賀状は、一笑に付している。
「でもあれ?」
ずっと年賀状の中身まで見ていた春奈の顔が、緊張した。
光もそれに気づいた。
「もしかして、首相?」
光は春奈から、その年賀状を受け取った。
春奈自身が、恐れをなしてしまい、中身を見られそうもない。
「そんな大丈夫だよ、春奈さん」
「普通の年賀状さ、気にしないでいい」
光は中身をさっと見て、春奈に返した。
その後、首相の他に、様々な閣僚からも年賀状が届けられていた。
「何か、凄いことになってきたね」
春奈は、光の顔を見た。
ただ、光は何も表情を変えない。
「ああ、年賀状のこと?」
「出していなかった人に、出すだけし、大したことない」
相変わらずキョトンとした顔でPCを打ち続けている。
「そうじゃなくて相手とか中身とか・・・」
春奈は、口に出そうと思ったが出来なかった。
光の指の動きは速いし、急かすように春奈の「読み上げる声」を待つからである。
結局、案外早く入力、年賀状の印刷も終わり、その日の中に出すことが出来た。
「でも、やっと光君との平穏な生活に戻った」
春奈は、伊豆から持ち帰った魚類で煮込みを作りながらほっとしている。
何しろ、年末年始は、周りに人が多すぎた。
確かに楽な面もあるけれど、何より光を「独占出来ない」もどかしさが強かった。
「それでも、当分は独占か、その間だけでも楽しもう」
春奈は、過去や将来はともかく、今は独占出来る、そのことだけが、心の張りの源になっている。
そして、その日の晩から新学期が始まるまでは、平穏な日々が続いたのである。
「あけましておめでとうございまーす!」
「光さん、そして、春奈さん、今日から学校ですよ!」
「さっさと起きてください!」
まだ午前七時半にもならないのに、いつもの華奈のインタフォンでの大騒ぎが聞こえて来た。
「ああ、全く光君との平穏な幸せの日々が、打ち破られた」
「年末年始一緒で、何でここで、あけましておめでとうございます?」
「そして、春奈さんって何?まるで付け足しみたいじゃない・・・」
「さっさと起きるも何も、とっくに起きています」
春奈は、むくれるけれど、朝ごはんの支度の最中、何ら対応が出来ない。
ただ、いつものごとく華奈は、どんどん鍵をあけて玄関からリビングに入り、春奈にはちょこっと会釈しただけ、何のタメライもなく二階に駆け上がっていく。
そして案の定、華奈の大声三連発が聞こえて来る。
「ほら!髪の毛グシャグシャ!」
「靴下が左右違います!」
「もう、こんなんだから、春奈さんにはまかせられない!」
華奈は、勢いあまって余計なことまで言って騒いでいるけれど、春奈も対策はしっかりととってある。
「ふん、ここでも、お雑煮どうせ食べるんだから」
「華奈ちゃんの分だけ、熱めで七味たくさんにしておく」
「口をおさえた顔が楽しみだ」
結局、春奈の対策は、功を奏した。
それでなくても、熱いお雑煮、七味の多さに、華奈は朝早くから口をおさえ、涙目になっている。
しかし、これには、光も少し気になったようだ。
「どうしての?華奈ちゃん?やけどでもしたの?」
特に春奈にとって、予想外の「華奈に対するやさしい声かけ」である。
「やば・・・逆効果?」
春奈は、少し焦った。
せっかく華奈に「仕返し」をしたのに、光がやさしい態度を華奈にみせれば、元も子もない。
「あ、でも・・・今更しょうがないか・・・またすぐに馬脚を表すさ」
春奈の焦りも何も、華奈は光から声をかけられた途端、ニンマリとしている。
「うん、少し熱くて、辛かっただけ」
七味の辛さ以上に、華奈の顔が真っ赤になっている。
そんな、どうでもいいバトルはともかく、三人が玄関に出ると、ソフィーが立っている。
「あれ?ソフィーどうしたの?」
春奈は声をかけた。
何故、ここにソフィーがいるのか、さっぱりわからない。




