光と「お相手候補たちの過去」、年賀状騒動
動画が進んでいく。
「へえ、みんなで奈良公園を散歩している」圭子
「桜がきれい」美紀
「でも、ほんと、光君ずっとニコニコ顔だね、ピカピカに光っている」美智子
「うん、あの笑顔でいつも癒された」ナタリー
「少し気難しいところがあったソフィーもね、光君の前では、素直なの、ほら光君から飴をもらっているでしょ」ニケ
「あ、ルシェールが光君の腕を組んだ」楓
「わっ、二人して楽しそうに踊っているし」
春奈は悔しそうな顔になる。
「ね、そこで華奈が泣き顔になっているでしょ、今も同じ」
美紀の冷酷な分析で、華奈は再び泣き顔になった。
動画は教会の内部に場面が移った。
「あれ?歌も残っているんだ」光
「ああ、全員で歌ったっけね」圭子
「そうそう、史さんが光君に指揮させて、菜穂子さんがピアノを弾いてね」
「へえ、モーツァルトだね」春奈
「あれ?楓ちゃんは入っているけど、華奈ちゃんは?」
美智子は華奈の姿を探した。
「ああ、光君の隣に立っている」圭子
「どうして・・・あ・・・そうか・・・」
春奈は、華奈の大声、子供声を思い出した。
それで、母親美紀から合唱に入れてもらえなかったと判断したのである。
ただ、動画に映る幼き華奈は、ニンマリとしている。
「結局、そばにいればいいのか・・・逆にあなどれない」
「でもなあ、なんで私いないんだろう、それが年齢差かあ・・・」
春奈は華奈に強い警戒心を覚えたけれど、動画に自分だけが移っていないことが、年齢差に原因があるとはいえ、本当に寂しかった。
奈津美の温泉旅館で、大晦日から元旦までを過ごした翌日二日に、光たちの都内組と圭子たち奈良の巫女集団は、奈津美の温泉旅館の送迎バスで、それぞれ帰宅の途についた。
ただ、ソフィーだけは「公務」があるため、別に帰った。
別れ際に、奈津美を含めてほとんどが泣き顔になった。
光が最後に言った言葉、
「全てが片付いたら、奈良でお花見しましょう」
その言葉だけが、全員の寂しさと別れがたさに、一筋の灯りをともしていた。
光と春奈、家に戻ると目を疑うほどの大量の年賀状が届いていた。
特に光宛が、異常に多い。
クラス内の学生、学園内の学生からの年賀状が多いけれど、やはり音楽を中心に学園外でも活動を行ったためなのか、他校の女子高校生や、晃子など音楽家からの年賀状が多い。
少し浮かない顔になった光の顔を、春奈はすばやく察知した。
「ねえ、光君、ほとんど出していない人ばかりでしょ?」
「光君が出した年賀状って、十枚ぐらいだよね」
確かに大晦日に光が出した年賀状は、本当に少なかった。
十枚でも多すぎるかもしれない。
「うん、これ全部返すの面倒だなあ、そのままにするかなあ」
やはり、怠け者の光である。
春奈にとって予想通りの反応になった。
「それでもね、ちゃんと返すものなの、年賀状だし、大変だったら手伝うから」
春奈としても、教育者、光を指導しなければならないと思った。
「そうですか、じゃあ・・・手伝ってもらおうかなあ」
光は素直に春奈に年賀状の束を渡してしまう。
「うん、まずは住所録からだね」
光がPCを開いたのを見て、春奈は住所録作成の手伝いをしようと思った。
とにかく、目の前でやらせないと、絶対に動かないと思った。
何しろ、亀の光なのである。
「じゃあ・・・住所と名前を読んでいくから、間違いなくね」
春奈に、指示されて光は懸命に住所録を打ち出す。
ただ、春奈の、「読み上げる声」は、しばしば止まる。
春奈は、住所・名前を読み上げながら、中身もしっかり読み取るのである。
「何よ、女の子ばかりで・・・」
最初はブツブツ言っていただけであった。
「光君ラブって何さ、そんなのばかり」
「どうして年賀状にキスマークを書くの?どうせ、私にはかなわないくせに」
「一緒にコンサート?やっぱり晃子さんか・・・うーん・・・リスク発生だ」
「わーーー由香利さんだ、字がキレイ・・・さすが」
「由紀さんのも、品がある、強いなあ」
「う・・・ルシェール・・・全部フランス語か、私が読めないと思って・・・あとで翻訳機してやる」
「なんとソフィーまで・・・これ、ギリシャ語?ますますわからない」
「圭子さん、奈津美さん、美紀さん、げ・・・鬼母の美智子さん・・・」
「ナタリーにニケか」
「どうせ年末年始一緒なのに、なんで年賀状出すんだろう」
「わ・・・小沢先生かあ・・・達筆!さすがだなあ」
光がしばしば待たなければならないほど、春奈の「読み上げる声」は止まっている。




