富士山と光、光のお相手談義
ただ、その当人の光は、ずっと富士山を見続けている。
それも庭に出てからずっと見続けている。
これには、圭子も注目した。
「ねえ、光君、きれいな富士山だけど何かあるの?」
少し慎重に声をかけた。
圭子の慎重な声で、他の巫女も姿勢を正した。
「うーん・・・富士山の力を感じる」
じっと富士山を見ていた光の口から、やっと答えが帰って来た。
「うん、普通のきれいな富士山だよ」
楓は首を傾げた。
楓の言う通り、他の巫女たちも、まったく異変は感じていない。
「ああ、今すぐってことではないけれど」
光の声が低くなってきた。
背中から、異様な光も見えている。
「確かに世界中で異常な気象状況、温暖化もあるけれど」
医師でもある美智子も考え始めた。
「山とか、高い所から発生する力は・・・宗教史的にと言うと」
宗教史の大家、美紀も考え始めている。
「とにかく、この間のドラキュラとかミノタウロスとか、比べ物にならない悪魔が相手だよ」
「そのために、日本で言えば一番高い山は富士山、富士山の力が光君に注がれている」
圭子の顔も、真面目になった。
「そうか・・・それでか・・・」
春奈は、納得する部分があった。
清水の交通事故対応や、芸能プロダクションとの一件でも、夏以前の光なら、考えられないほど光が強くなっている。
それも奈良町の巫女集団や、由紀、由香利、ルシェール、最近はソフィーまで協力したうえで、強くなったとは思うけれど、それももしかすると「阿修羅の意思」で、そのようなレールが引かれているのかもしれない。
ただ、しかし自然現象と関連するまでの闘いは、今まではなかった。
夏のコンサートでは、秘密の暴力集団、クリスマスの時は、あくまでも悪魔の霊との闘いだったのである。
「まあまあ、お正月そうそう、あまり難しい事考えないこと」
奈津美が、少し震えている春奈の背中を、ポンとたたいた。
奈津美の手には、シャンパンとシャンパンのグラスがある。
「わ!クリュグ!」
圭子が途端に、ニンマリとした。
「最高級じゃない!さすが!」
美智子も興奮している。
「うーん、味の宝石・・・」
一口含んだ美紀は、うっとりとしている。
「美味しいなあ」
光も、ゆっくり味わって飲んでいる。
「最高・・・光君と飲めるなんて」
春奈は、スキを見て光と腕を組んでしまった。
「ほお・・・」圭子
「時代はともかく、やはり、お似合いだ」美智子
「うん、しっくりくるね」美紀
「悔しいけれど、事実だ」楓
「そこまではいいけれど華奈を忘れてはいけない」
どうにも納得できない華奈は、左腕を組んでしまう。
ただ、華奈の考えは浅かった。
華奈は、シャンパンの半分で酔ってしまった。
顔が真っ赤になり、眠くなり、いつの間にか部屋に寝かされてしまったのである。
「ほら、だからオレンジジュースっていったのに」
母の美紀は呆れるけれど
「華奈ゃんだって光君と飲みたかったのさ、この時代こそ、なんとかしたいのかな」
圭子は、少し同情する。
「そんなの、単なるめぐりあわせでしょ?次の世は私」
楓は、あまり華奈には同情しない。
「いや、私もいいなあ、次の世は参戦するかな」
奈津美も、ニコニコと名乗りをあげる。
「うん、楓ちゃんよりもいい、楓ちゃんは光君に厳しすぎ」
春奈は、ここでも楓に少し牽制をする。
しかし、楓も簡単には納得しない。
「そんなことはない、光君もともとグウタラなのに、春奈さんとか他の人が甘やかすから、ますますいい加減になる」楓
結局、光にとって、巫女連中のどうでもいいバトルが始まっている。




