奈津美と光 巫女集団は温泉に
さて、それぞれが、部屋に入り大騒ぎしている間、光は自分に用意された部屋で、叔母奈津美と話をしていた。
「光君、本当に久しぶり、叔母さん泣けちゃうよ、お葬式以来だもの」
既に、奈津美は泣き出している。
奈津美の手には、光が家から持ってきた、母菜穂子の写真がある。
光は、少し顔を赤くして、下を向いている。
「菜穂子姉さんが生きていた頃は、よく家族で来てくれて、本当にうれしかったの」
「私も、奈良町から遠く離れて、こういう商売だから、休みも取りづらくてね、光君に逢いに行くことも出来なくて、本当に寂しくてさ」
「史兄さんにも、考えがあるんだろうけど、ずっと一人でクリスマスとお正月なんて、寂しすぎる」
「だから、ここでは、思いっきり羽を伸ばしてさ、ゆっくりしていてね」
「ここの旅館の板前さんも、仲居さんたちも、光君のこと、ずっと覚えていてさ、今日から泊まるの、うれしくて仕方がないの」
叔母奈津美は、いろんなことを言い、光の肩を抱いている。
ずっと赤い顔で下を向いていた光が口を開いた。
「奈津美叔母さん、海を見てもいいかな」
「奈津美叔母さんと見たい」
「うん・・・久しぶりだね」
奈津美は、光と立ち上がった。
二人で、バルコニーから、眼下に広がる駿河湾を眺めている。
「静かな海だね」光
「うん、今日は暖かいし、明日も、穏やかなお正月になるよ」奈津美
「この部屋、富士山がきれいに見える」光
「お父さんの設計の部屋の中でも、一番きれいに見える部屋を、光君の部屋にしたよ」
奈津美は、光の手を握った。
また、奈津美は泣き出している。
「今日は、少し庭を散歩して、ゆっくり温泉に入ります」
光は、少し話題を変えた。
いつまでも、叔母奈津美を泣かせておくわけにはいかない。
「ああ、大広間にね、大型スクリーンも音響装置も置いたよ、そしてピアノもね」
奈津美も、ようやく普通の会話に戻った。
「もしかして、音響装置って?父さんの?」
光は、何か感づいた。
「うん、北海道の木だって、相当古い木で出来ている、厄払いの力もあるらしい」
奈津美は、ニッコリとする。
「へえ、面白いなあ、それでさ、奈津美叔母さん、お願いがある」
光の目が、輝いた。
「なあに、光君のお願いなら、何でも聞く」
奈津美は、うれしそうに光の顔を見た。
「あのね、ピアノ弾くから、歌お願い」
光は、恥ずかしそうな顔をする。
「へーーー覚えていたんだ、昔、大晦日に菜穂子姉さんのピアノで歌ったねえ・・・光君のピアノもいいなあ・・・」奈津美
「この話が決まってから、ずっとそうしたかった」
光もニッコリとする。
「うん、気合が乗って来たな」奈津美
「さすが、音大声楽科だなあ」光
「うん、ノリノリさ!」奈津美
光と奈津美のその後の話は、音楽話でずっと盛り上がっていた。
巫女集団は、すぐに、露天風呂に入った。
大広間の隣にある、大露天風呂である。
部屋にある露天風呂ではない、全員で入りたかったようだ。
大晦日にしては、暖かであり、駿河湾も富士山も、美しく見えている。
「ふう、岩風呂なんだけど、座りやすいね」圭子
「さすが、史さんの設計だ、入る人のことを考え抜いている」美智子
「顔とか、身体はゴツイけれど、人は優しいね、好きだったなあ」美紀
「うーん、そのゴツサを受け継いだのかな、楓ちゃん・・・」
春奈が、ゆっくりと湯船に入ると、楓と華奈が露天風呂に入って来た。
「うん、楓ちゃんの下半身は立派だ」美紀
「下半身だけが立派に訂正すべきだ」圭子
「華奈ちゃんは・・・可愛いなあ・・・」美智子
「私の十五歳の頃のほうが可愛い」美紀
「うん、そう言えば、そうかなあ」圭子
「うん、美紀さんて、ピカピカだったね、周りを圧倒するぐらいだった」美智子
「私の憧れの女子高生、女子大生だったもの」春奈
「・・・うーん・・・それが、史さんには、通用しなかった」美紀
「まあ、それが縁ってものさ、むずかしいけれどね」圭子
年上の巫女集団が様々話をするなか、楓と華奈は、話を聞くまでもない、自分たちだけの話で盛り上がっている。
「明日、ルシェールとソフィーが来るんだよね」楓
「うん、お昼までには来るって聞いたよ」華奈
「あんな底意地の悪い年増連中は、どこか置き去りにしてさ、光君と遊ぼうよ」楓
「そうなると若い子ばかりでってこと?何して遊ぶの?」華奈
「ああ、そういうことは、ソフィーが詳しい、車もあるしさ」楓
「抜け駆けするの?ばれると面倒かも」華奈
「やったもの勝ちさ、お正月だし」楓
「そうかあ・・・面白いなあ」華奈
楓と華奈は、二人だけの秘密の話と思っていた。
しかし、無駄だった。
楓の母、圭子は、「見通しの巫女」、楓と華奈が話をする前に、二人の会話の結末まで読み切っていたのである。




