不審なメール
正月の温泉、まるで合宿のような話が決まったけれど、ただ、春奈は、かなりがっかりしていた。
他に人がいない状態での光との温泉旅行を楽しみにしていたのである。
そして、このがっかりの原因は、昨日華奈と一緒の時に、何となく浮かんでしまった「温泉」の言葉を、まず華奈が読み、その華奈の「単純な」頭の中を美紀が読んだと思った。
「本当に油断もすきもない、巫女集団・・・」
春奈としては、次の戦略を練る必要に迫られている。
「あんな、おばさん連中と温泉なんてなあ・・・」
「楓ちゃんの、どっしりお尻と、華奈ちゃんのお子ちゃま、幼児体型か・・・そんなのはどうでもいいか」
「とにかく温泉でのスタイルナンバーワンは、この春奈さんだ」
「まあ、正月はあきらめよう、仕方がない、少し間をあけて、再チャレンジさ」
春奈がそんなことを考えていると、圭子から連絡があった。
「ああ、春奈ちゃんね、さっきナタリーから連絡が入ってさ」
「新年のミサが終わったら、ナタリーとルシェール、ニケとソフィーも伊豆に来るって」
「特にソフィーは、政府の厳命らしい、光君の警護だって」
春奈は、圭子の言葉の中で「政府の厳命」は、どうでもよかった。
「う・・・ルシェール、ソフィー・・・スタイルナンバーワンが・・・危うい」
春奈は、またしても多くの巫女集団の中での「埋没」のリスクを感じている。
翌朝、春奈は、光に「お正月の温泉」の話をした。
光も、母の妹、奈津美叔母さんの温泉旅館と聞き、簡単に了解した。
春奈がほっとしていると、早速光の家に電話がかかって来た。
奈津美叔母さんからである。
光が電話に出た。
「ああ、奈津美叔母さん、お久しぶりです、懐かしいなあ」
光は本当にうれしそうな顔をしている。
「うん、こっちこそだよ、ずっと光君にほったらかしにされてさ、今、声聞いて泣きそうだよ」
奈津美は既に、涙声である。
「それでね、お正月なんていっていないで、今日からでもいいよ、お迎えに行きたいぐらいさ、もう声聞いたら逢いたくてしょうがない」
奈津美は、涙声が増した。
「ああ、はい、奈津美叔母さんの、お雑煮大好きです、すごく楽しみにしています」
「それでも、ごめんなさい、ちょっとだけ片付ける用事があるので、年末、大晦日からお願いします」光
「うん、わかった、姉さんの写真持ってきてね、それから、料理とお部屋はとびきりのにする」奈津美
「本当に急ですみません」
光としても、「急な話」で申し訳ないと思ったようだ。
しかし、奈津美は
「気にしないで、今年の秋、作ったばかりで、まだ誰も使っていない離れがあるの」
「というか、予約をまだ取っていない」
「何故だかわかる?」
奈津美は、涙声で光に尋ねた。
「えーっと・・・わからない」
光は正直に、答えた。
「実は、離れは、光君のお父さんに、設計を頼んだの」
「だから、光君に最初に入ってもらいたかった」
奈津美は、そこまで言って、本当に泣き出してしまった。
春奈は、ずっと光と奈津美の会話を聞きとっていた。
春奈の知らない光の過去がまだ有ったことが気になったけれど、光の言っていた「ちょっとだけ片付ける用事」のほうが気になった。
そして、その「用事」が、春奈には全く予想がつかない。
勉強やピアノの練習ではないだろうし、年末特有の家とか庭の掃除は普段から完璧なまでに出来ているので、問題はない。
となると、阿修羅関連の用事かなと思い、光の顔を見た。
すると、光も春奈の顔を見て、頷いている。
「ねえ、光君、何かあるの?」
春奈は思い切って聞いてみた。
春奈としては、実は奈良の巫女集団とかルシェール、ソフィーなどを「出し抜いて」本当は、今日からでも光と温泉に行きたかった。
光の叔母、奈津美とは、子供の頃、話をしたことも思い出していて、懐かしさもある。
それが「阿修羅関連の用事」となると、また、不穏なことが起こってしまうのか、不安も感じている。
「ああ、最近ね、変なメールが来ていてね、面倒なので片付けたい」
光は、春奈に素直に白状した。
ただ、すんなりとスマホを渡したので、隠すつもりもないようだ。
「へえ・・・何?」
春奈は、光のスマホを手に取り、「変なメール」を読み始めた。
「何これ?プロダクションって?」
「光君と面会を希望しているよ・・・」
「もしかして芸能界のスカウト?」
「すごく有名な歌手の顔映っている、K二郎って人?」
「それにしても、何で光君のメルアド知っているの?」
春奈は、首を傾げた。




